きみとみる世界
□さがしもの
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ルーナはしっかりしてると思いきや、大事な部分がずっぽりと抜けている。
例えば、危機感。
「ルーナ、行くよ。」
「へ?さっきはあと三十分位したらって…。」
「……。」
ポケモンセンターのロビーにて、ルーナが見知らぬ男に話しかけられていた。
時計を見るルーナの横で、邪魔するなとでも言ってきそうな雰囲気だった男を威圧。
男はすぐに口をつぐみ、僕と目を合わせないよう顔を逸らした。
「今の時間はジム開いてないけど…、いっか、じゃあ行こう。
えっとー、失礼します。」
「ああハイ、た、楽しんできて下さいねー…。」
ぺこりと頭を下げたルーナを連れて外に出る。
雲一つない快晴だ。
「ルーナは危機感持った方がいい。」
「にゃ、何、いきなり?」
「虫、いっぱいいるから。」
「?」
顎に手をあて考え込んだ後、知らない人にはついていかないよ? と小首を傾げた。
それは当然の事として、是非行動にしてもらいたい。
「でも大丈夫、もし何かあってもこの子達がいるし!
レッドに迷惑かけないよ。」
ホルダーに連なるボールに手を添えてにこにこと笑うけど、それはそれで頼りにされてないみたいでちょっと傷付く。
ていうか昨日の夜、頼ってもいいって言ったし、ルーナも笑っていたはず。
ともあれ、この街には人が多いらしい。人混みの中ではぐれないようにしなくては。
……と誓っていた、一時間前。
殴りたい。激しく自分を殴りたい。
ピカチュウ、今すぐ僕にかみなりだ。
「ぴいか、ぴかぴー!」
ピカチュウが呼ぶように鳴いた声は、人々の喧騒の中に虚しく消えた。
返答はない。
耳を下げたピカチュウが僕を見、どうしようと訴え掛けてくる。
ルーナとはぐれてそう時間は経っていないから、近くを捜せばすぐに見つかるかもしれない。
人の間を縫って走り、あの夜空のような髪を探す。菫がかったような、紺色を。
時折立ち止まって辺りを見回し、また走り出すことの繰り返し。
連絡さえ取れれば、とここまで強く思ったことはない。
自分もライブキャスターを持っておこうと決めた。
「…はぁっ」
一つ息を吐き出して、たったっと足を止める。
これで遊園地内はほぼ一巡りしたはずだ。あと行っていないのは、ジム内か。
だけど、きっとそこにはいない。
ルーナは今どうしているだろう。
今の僕のように走り回っているだろうか、それとも下手に動かず、どこかでぽつんと待っているのだろうか。
ざわざわ、ざわざわ。
人のざわめきが妙に耳につく。
ざわめきだけじゃなく、その他の物音も。
石畳を歩く音 草の上を歩く音 衣擦れの音 幼い子供の笑い声 観覧車が動く音――無音の空間に居るとき聴こえる、独特のキィーンとした音
それら全てが混ざり合い、一つの感覚を僕に思い起こさせる。
シロガネ山の奥。
一人、自分に“勝ってくれる”トレーナーを待っていた四年間、感じ続けていた、『孤独』。
何人ものトレーナーが、僕の前から消えていった。
僕を身を切られるような寒さの中に一人残して、消えていったのだ。
中には鍛え直して戻ってきたトレーナーもいた。
だけど結果は、いつも同じ。
“ひとり”は恐い。だけども僕は、山を降りることはしなかった。
――きっと次のトレーナーは、“勝ってくれる”
この期待と、一緒に耐えてくれるポケモン達の存在だけが、僕をあの地に留まらせていた。
今の感覚は、その時と同じ。
見付かるかもしれない、でも見付からない。
僕は今、“ひとり”なんだ。
目の前を移動して視界から消えていく人々を眺める自分に、誰かがそう囁いた気がした。
「やあ、どうかしたのかい?」
「…!!」
聞き覚えのある声に、僕は弾かれたように振り向いた。
そこには予想した通りの男が立っていて、ただ不思議そうに、僕を見る。
「レッドとN…知り合い、だったの?」
何故か、後ろにはトウコが。
「…どうして、トウコがそいつと一緒にいる。」
「そんなのわたしが聞きたいわよ!言っておくけど、わたしはプラズマ団の仲間なんかじゃないからね!」
眉を吊り上げて怒るトウコの右手を見れば、なるほど、手首がしっかりと掴まれている。
トウコの意思で一緒に居るわけではなさそうだ。