きみとみる世界

□電車でGO!
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(明日は目一杯、僕に付き合うこと。)
(僕から離れたら許さない)

昨日の夕方言われた言葉が、頭から一瞬たりとも離れないまま朝が来た。
部屋は変わらず相部屋。

あの言葉は、一体どう取ればいいんだろう?
怒り? 呆れ? うんん、そんな感じじゃない。
言葉の内容だけそのまま取ると、俗にいう独占欲みたいだけど、私に対してそんな感情湧くわけないから、除外。

やっぱり、単に心配してくれたのかな…。だとしたら、なんだか、嬉しい。


起き上がって時計を見ると、いつもより三十分くらい早かった。
二度寝する時間には短いし、目も頭もすっきりしている。

外を散歩でもしようかな、と、私はいつもの服装に着替えて、部屋を出た。




「んー、良い天気!」

外の空気を肺いっぱいに吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。
いかに娯楽都市のライモンでも、早朝は人も少ないし空気も清々しい。
ポケモン達も連れてきてあげればよかったかも。

のんびりと街を歩きながら、久々に見る風景に懐かしさを感じる。
例えばあのバトルサブウェイ。
暇になったら入り浸って、丸一日太陽を見ない日なんてざらだったっけ。

リトルコートではスポーツ選手や応援団相手にバトルして、たまーにミュージカル見て。

旅をしていなかった一年間という期間は、思い返せば長かったなあと思う。

「そろそろ戻ろっと。」

誰に言うでもなく呟いて、方向転換したその時

「うにゃあ!?」

ぼふっと何かが勢いよくぶつかってきた。
相手が軽かったので転びはしなかったけれども、向こうはふわーりと飛ばされ、石畳にぼてっと落ちる。

白いもこもこに茶色の体。
ぶつかってきたのは、エルフーンだ。

「ごめんね、大丈夫?!」

うつ伏せに倒れたエルフーンを抱き上げると、ピッと片手を上げてキリッとした目付きになる。
大丈夫っ!、と言っているかのようだ。

「るふーん?」

「私?私は大丈夫だよ、ありがとう。」

もふもふと頭を撫でてあげると、気持ち良さそうに手に擦り寄ってきた。
かわいいな〜。でもこの子、どこの子だろう。
鍛えられ途中といった雰囲気を醸し出しているし、どこかにトレーナーがいる筈…。

「あ、いた!エルフーン!」

「えるーふ!!」

一人の少年がこちらに向かって走ってくる。
呼ばれたエルフーンが、私の腕からぴょんと飛び出した。

「もう、ダメだろ?一人でふわふわ歩き回ったら!
すいません、エルフーンが迷惑かけて。」

困ったように笑って、ぺこんと頭を下げる少年。
何だか可愛い感じだ。

「んにゃんにゃ、迷惑なんかかかってないよ〜。だから大丈夫。
それにしても、朝早いね。」

「はい、なんだか早く目がさめちゃって。エルフーンと散歩してたんです。
お姉さんも散歩?」

「うん。ポケモン達はまだ寝てたから置いてきちゃったんだけどね。」

そのまま道端でお喋り。
少年のエルフーンの話から始まり、私の相棒達の話もして、わいわいとポケモン談義に火が着いた。

『ルーナ、ここにいたか。』

「ふえっ、ウォーグル!あれっ、もうそんな時間?!」

暫く経った後、ポケモンセンターから飛んできたオーラに呼び掛けられて、ようやく時計を見る。
いつもならもう朝ごはんが作り終わっている時間だ。
ちょっ、これはまずい。

「ごごご、ごめん、私朝ごはん作らないといけないから、ポケモンセンター戻るね!!」

「えああ、はい。誰かと一緒に旅してるんですか?」

「うん、そうなの。じゃあね、えーと…」

「トウヤです。」

「私はルーナ、じゃあね、トウヤくん!!」

ここまで早口になったのは初めてかもしれない。
オーラの背に飛び乗って、一瞬とも思える風を感じる。

『あの少年、中々よい原石だな。』

あっという間にロビーへと滑り込んだオーラから降りて、厨房へ向かう。
ジョーイさんが苦笑いしているのが見えた。ごめんなさいジョーイさん、そしてありがとうございます。

「やっぱりオーラもそう思う?」

走りながらの会話もすぐに終わり、駆け込んだ厨房で待機していたリュカから鞄を受け取る。

『まあ、強くなってもルーナには敵わぬだろうが。』

「あはは、オーラってば買い被りすぎ。でもそう言ってくれるから、私は負けたくないとも思うんだけどね。」

話しながらも手は要領よく動いてくれる。
手早く備え付けのトースターに食パンを放り込み、スイッチオン。
次は木の実を切りにかかりたいけれど、ここは急いでいるので…

「リュカ、オーラ、フリーズ木の実お願い!」

『ええ!』 『応!』


木の実を入れたボウルごと天井へと投げる。
リュカはそれに吹雪を浴びせて、得意のドラゴンテールで程よく粉砕、床に落ちる前にボウルを持ったオーラが回収。

うん、しばらくやってもらってなかったけど、完璧だ。

後は私がそれにヨーグルトを混ぜ、強火にかけていた半熟目玉焼きをフライパンから下ろして、

チンッ

「やったあ、2分ジャスト〜!!」

パンが焼き終わるのと同時に、支度はしっかりと整った。
額を拭いながら息を吐く。

『最高記録ね。』

『何故その腕を家で使わなかったのか。』

「う〜ん、家だとどうしても怠けちゃって…。」


ぱちぱちぱち…


背後から手を叩く音がする。
何だろうかと振り向くと、レッドが壁に寄り掛かって優しく笑っていた。
一体いつから見てたんだろうと、一気に顔に熱が集まる。

「お見事。」

「あああ、ありが、とう…。」

うう、なんだか凄く恥ずかしい…。

『ご主人、早く食べよ。』

「う、うん。」

ソラにぴょんと飛び付かれて、私は俯いたまま頷いた。


 
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