きみとみる世界

□草木迷宮にて
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ヤグルマの森よりは明るいけれども、やはり鬱蒼と繁ったこの森には不思議な話がある。
さして入り組んでいないのに、迷うと言われているのだ。

そして、更に迷いそうな時間に二人の旅人が、この森に足を踏み入れた…。

「ねえ、レッド。」

「………。」

「なんで、こんな時間に迷いの森に入ろうと思ったの?」

「…気分。」

さっきポケギアの時間を見た限り、ただいまの時間は夜中の11時を回っている。
ついさっきまで駅員に睨まれながら瓦礫を片付けたり、ある程度の復旧作業を手伝っていてそれなりに疲れているけれど、さっきトウヤだかとかいうトレーナーに気になる話を聞いてしまった。

(迷いの森って知ってますか?
なんでも、大して入り組んでもないのに迷うっていう不思議な森なんです。
一説によると、幻影を見せるポケモンが旅人を迷わせてるとか。)

ルーナにも聞いてみたら

「うん、そうだよ。生息するポケモンはヤグルマの森と変わらないけど…。幻影を見せるポケモンが気になる?」

流石ルーナ、よく分かっている。思い立ったが吉日、なんて世間では言うし、地下から解放された後ルーナの手を引いて迷いの森にやってきたというわけだ。

…ルーナが暗闇を怖がるのが見たいとか、物音に驚いて抱きついてこないかなとか。
そんな下心はない。けっして。

「気分って、何…。」

「りゅう〜。」

いいながら、しっかりとハクリューに抱きついているルーナは、すごく怖がっている様子。
ハクリューじゃなくてこっちに抱きつい…げふんげふん。

ガサッ

「…!!」

びくっとルーナの体が跳ねる。
音のした方を見れば、クルマユがひっくり返って寝ていた。寝返りでもうったらしい。

胸に手を当て、深呼吸を繰り返しているルーナの手を再び引っ張って、森の奥へ奥へと入り込む。けれでもすぐに行き止まりになってしまっていた。

途中横道や分かれ道もなかったはずだ。一本道で来て、それでも迷うとしたら、やはりポケモンの仕業に違いない。

「ピカチュウ。」

「ぴいかぴか。」

何か感じないかと相棒に聞いてみると、首を横に振りルーナのハクリューを見る。
ハクリューも黙って首を横に振った。

「…今は、何もいないみたいだよ。」

辺りを見回しながら、ルーナも言う。
確かに、何の気配も感じなければ気味の悪い空気が立ち込めているわけでもなく、ここはただの森だ。
これ以上居ても何も起こらない。そう囁きかけた自分の勘を信じて、元来た道を辿る。

「帰るの?」

たたたっ、と僕の横に並んできたルーナに頷き返して、段差を飛び降りると、すぐに入口が見えてくる。
本当になにも無かった。
話の通り迷いもしなければ、目新しいポケモンがいたわけでもない。

まあこんな時の方が多いと言えば多いから、今更落ち込んだりはしまい。次また来ればいい。
そう考えながら、森を流れる沢に架かった橋を渡り終えようとした時だ。

「危ないレッド!!」

何かが僕達の頭上を横切ったのを見たと思ったら、ルーナに前へと突き飛ばされる。
振り返ると今しがた僕がいた場所に、無数の葉が突き刺さった。

「ルーナ!」

「私は平気、…っ、」

向こう側でルーナが片膝をついている。平気、と言いながら右腕を押さえるのに、僕は自分に苛立ちを覚えた。
ピカチュウもハクリューも臨戦態勢に入り、目の前を流れ落ちる滝の上を睨み付ける。

雲の間に隠れていた月の明かりが、奇襲をかけた者の姿を照らす。
そいつは威圧するようにこちらを見下ろしていた。
初めて見る、緑色の四つ足のポケモン。

「…ビリジオン……。」

ルーナが小さく声に出した名前に答えるように、そのポケモンは一声鳴く。
ルーナは立ち上がりハクリューをボールへと戻すと、まっすぐにそのポケモンを見て語りかけ始めた。

「ビリジオン、私達はこの森を荒らしに来たんじゃないよ。
ゾロアークの事を詮索しに来た、と言えばあなた達には敵だろうけど、危害を加える気は全くなかったの。
私達はこれで帰るから…、え、何…?」

ルーナが目をしばたかせ
る。
一瞬の静寂がその場を支配した後、違う、と掠れた声で呟かれたのを聞いた。

足元のピカチュウが鋭く鳴き、ルーナのポケモンが独りでに飛び出す。
一体何が起こっているんだ、あのビリジオンというポケモンは、何を言ったんだ。

『…ここより、失せろ。』

(!!)

はっきりと頭に響いた声とビリジオンの動作は、僕を動かすには十分すぎた。
右腕でルーナの肩を抱え、咄嗟に沢へ飛び込む。
ビリジオンの攻撃を相殺したポケモン達も水の中へ逃げ、シャンデラはリオルがホルダーから取り出したボールへと収まった。

「ビリジオン!!」

ばしゃ、と水音を立てルーナがビリジオンを見る。

相変わらず此方を見下ろす目を冷たく光らせ、ビリジオンは奥へと消えていった。



 
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