きみとみる世界

□けたたましい朝
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早朝。


空が白み、早起きなマメパト達が空を飛び回り始める時間。

二人のトレーナーが、ポケモン達と共に寝息を立てているなか、その音は響いた。


ピリリリリッ、ピリリリリッ


機械特有の電子音は、静かな空気を裂いて鳴り続ける。
ついにもぞもぞと体を動かし、うっすらと目を覚ましたのは、白いシーツに菫がかった紺の髪を広げる少女。

まだ覚醒しきっていない頭で思い返しているのは、昨夜の寝る前の事だ。

仰向けのまま腕だけ伸ばして、枕元を探る。
指先に当たったライブキャスターを拾い上げてみたが、やはり画面は真っ暗で、目覚まし代わりのアラームでないと分かる。

かるく弄って時間を見ると、枕元に戻した。
まだ5時にもなってないなぁ、と心の中で呟いて、ばふっと枕に顔を埋める。


二度寝しても問題ない時間だと考えて、ようやく朝の空気が取り戻した静寂に目を閉じようとした、その時である。


ピリリリリッ、ピリリリリッ!



「…、むー…。」

再びけたたましく鳴り始めた音に、閉じかけた瞳がぱっちりと開かれる。
半目になって天井を眺めた後に、勢いをつけて体を起こした。

ルーナが寝ていたのは、自身で敷いたマットの上。
昨夜、レッドとルーナが一つしかないベッドをお互いに一歩も引かず譲り合い続けていたのを、
いい加減うっとおしくなったらしいピカチュウの提案で、ジャンケンをして決めた結果である。


負けてベッドを勝ち取った(ジャンケンして負けた方がベッド、というルールだったため)レッドはずいぶんと気にしていたのだが、なにしろ完成されたポーカーフェイスの持ち主だ。
そんな心境はルーナにも伝わらず、レッドはしばし途方に暮れて、早々に眠ってしまったルーナの寝顔を撮ったりしていたのだが、彼女は知らない。

毛布の端で大の字なって寝ているソラを起こさないように、そっと布団から抜け出して、部屋をぐるりと見渡す。

見ずとも発音源は分かっている。
レッドのポケギアだ。

「……あやや…。」

すぐ横のランプの脇に置かれたポケギアは、画面に名前を点滅させていて、電話の着信だということが分かる。

こればかりは、ルーナにはどうしようもない。
レッドが目を覚ますのを待つか、向こうが諦めるのを待つかだが、三回目の呼び出し音が始まったところを聞くと、向こう側に諦める気はなさそうだ。

『先程から喧しいな。何の音だ。』

不意に頭に響いた声に振り向くと、片目だけを薄く開いてルーナを見ているオーラがいた。
睡眠を邪魔されて些か不機嫌なようで、言葉に少しトゲがある。
ルーナは肩を竦めつつ、オーラに事を説明した。

《レッドのポケギアに、電話がかかってきてるの。でもレッドは起きないし向こうも諦めないしで…。》

『そもそもこんな時間に電話を掛ける事からして非常識だな。』

『もう叩き起こしちゃったらどう? このままじゃ確実に、いつもの時間まで起きないわよ。』

いつの間にかリュカも目を覚ましていて、スルリとルーナの横にやってくる。
見ればリクやソラ、ピカチュウまで起きていて、毛布の上で寝たりなさそうに目を擦っていた。

『レッド、よく寝れるなあ…。』

そしてピカチュウはもう呆れ顔である。
腹いせなのか、騒音を物ともせず安らかに寝息を立てているレッドにしっぽの一撃をおみまいした。

ズパンッ! とピカチュウのしっぽが恐ろしい音を立てたと同時に、ポケギアは静かになった。
けれども、いつもアイアンテールを繰り出している、鍛え上げられたしっぽの一撃を受けても、レッドは身動ぎひとつしない。

すー…、と相も変わらず安らかな寝息をたてているのを聞いて、一同、思わず脱力。
確かに起床する時間としては早いけれど、いくらなんでも起きなさすぎである。

以前、ピカチュウが電撃を食らわせて起こしていた理由が、よく分かった。



…ピリリリリッ!

『「…………。」』

四回目のコール。



こっちもここまでくるともはや嫌がらせの域だ。
そしてそれをスルーし続けているレッドも凄い。
今にも電撃を放とうと頬袋をバチバチ言わせているピカチュウを宥めて、ルーナはレッドを穏便に起こす為ベッドの側へと寄る。

いつもの大人びた印象からうってかわって、幼い子供のようなあどけない表情で眠っているレッドの肩を、揺らしながら呼びかけた。

「レッド、レッドー。」

ゆさゆさ。

「電話だよ、起きて!」

ゆさゆさゆさ。

「……うーん…。」

『ダメだよルーナさん。もっとガツンといかないと』

腕を組んで唸るルーナの足元で、ピカチュウがエアボクシングをしながら言う。
ガツンと、じゃなくて、それじゃあボコボコ、だよ。
流石に暴行を加えることは出来なくて、でもポケギアの音はまるで、急かすように耳に響いてくる。

……ピリリリリッ!!

「ううう〜〜…。」

『ご主人、ご主人。起こしにくいなら、オレがやりますよ。』

頭を抱えるルーナの肩にぴょんと飛び乗ってきたのは、ソラだ。
頭の房を揺らしてウインクする彼に、ルーナは首を傾げる。
まさか自分に変わって殴る気じゃないだろうかと不安になるが、この騒音で起きないならもうそれしか手がないのかと自分を納得させる。
しかし、レッドは人間だ。あんまり多く殴られないようにと、ソラに確実に一回で起こしてねと頼むと、彼は任せてくださいと頷き笑った。

『目覚ましビンタ使えば、一回で起きますよー。』

「えっ?!」

そう、ルーナはソラに目覚ましビンタを覚えさせていた。もちろんこんな事態を想定していたのではないが、確かに眠っている相手を起こすのには最適である。
そこに異論はないが、今目の前のソラはどうだろう。

笑顔全開で、大きく手を振りかぶっているのだ。

(全力で叩く気だ!!)

そう悟ったルーナだったが、時すでに遅し。
ソラの目覚ましビンタが、レッドの左頬にクリーンヒットした。



 
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