きみとみる世界

□強さの定義、見えない弱さ
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只今、朝の5時半。


普通の人なら、まず外出しないだろう。



それは、人の噂をほじくりかえしては有名人を追い回し、あることないこと紙に書き散らして、世間の欲に忠実すぎるほどに応えんと奮闘する集団だって、同じな筈。



なのに、なんで…。


「ルーナさん、なぜまた旅に出ようと思ったのでしょうか!?」「先程一緒に居られた男性とは、一体どんな関係なのですか?!」「そのリオルを仲間にしたきっかけは!」「なぜこんな早い時間から外へ?」


こっちが聞きたい!! 何が悲しくて、こんなに早い時間から人にマイクやらカメラやら向けられて、質問攻めにされなくちゃいけないの!!

苦労して、ようやくここ一年間は取り囲まれずに済んでいたのになぁ。やっぱり外に出ればこうなるんだなぁ。
ああ、儚い平和だった…。

とにかく、矢継ぎ早に放たれる質問にはもう、憂鬱のため息しか出ないよ。
それでも笑顔を作り続けている私、もう表情筋がこの形に固まっているんじゃないかと思う。

今この場にレッドがいなくてよかった。本当に。
ていうか、いきなり待っててって言い残してどこかに行っちゃったけど、どこに行ったんだろ…。

うん、とりあえずここから逃げなきゃ。

レッドも偽名を使っていたところを見ると、こういう集団に捕まりたくはないんだろうし。
私だって嫌だ。
オーラに脱出依頼をしよう…。

「ルーナさんが他のトレーナーに破れたというお話は聞きませんが、チャンピオンの地位を守っていることについて、何か一言お願いします!」

好きで守ってるんじゃない。
私に勝てる人が居なかっただけ。

これだけは言っておこうと口を開きかけたとき、地面に一瞬だけ、黒い影が横切った。
続いて響いた羽音に、私は知らず口元を綻ばせる。
空を見上げ右手を掲げて、其の名を呼んだ。


「ウォーグル。」

瞬間、突風が吹いた。


突然の事に、メモ帳やペン等を取り落とした記者達が持ち物を回収して、顔を上げた時、中心にはもう私は居ない。

空に逃げられたということに気が付いたマスコミの一人が、こちらを指差して何事かをを言ったようだけど、気が付いたところでどうしようもない。

気が利く事に、オーラは皆もボールに入れて連れてきてくれていたみたい。
嘴にくわえられていたベルトをお礼を言いつつ受け取って、そのうちの一つを宙に放る。

一旦ホテルに戻るにも、入っていくのを見られたら意味がないもんね。

「シャンデラ、フラッシュ。」

『ハイ!目ぇ瞑ってて下サイ。
ほりょああ!!』

謎の掛け声と共に、カッと強い光が周囲を白く塗り潰す。
光に背を向けている格好になっている私達でさえ、まともに目を開けていられない程の強い光。建物の裏にまわったところで、ティアをボールに戻す。

「ふう…、ありがとうオーラ、ティア!」

『先輩方、あざっす。』

『それはよいが。これで暫く、用心する必要があるな。』

『写真撮られてたラ、ゼタイに雑誌のトップになりそデス。
…っち、せっかく平和だたの二。ルーナの手を煩わせテ、今すぐ煉獄の炎で魂燃やしてやりたいデスネ…。』

「ティア…、そんな怖いこと言わないの。」

でちゃったよ、シャンデラ本来の一面が。

ポケモン図鑑によると、シャンデラの炎に巻かれた生き物は、魂だけを焼かれるんだそう。

ボールがガタガタと貧乏ゆすりのように揺れているのを撫でて落ち着かせながら、眼下を見てレッドを捜してみる。
視界に入る道に、赤は見つからない。

ほんとのほんとに何処に行ったんだろう…。

『ところで、レッドはどうしたのだ。』

『なんか途中で、待っててとだけ言い残してどっか行きました。』

『…何?』

ギロリ。

そんな音が聞こえそうなほど強く、オーラが下を睨み付ける。
ま、まずいや……


「でで、でも、レッドが丁度居なかったおかげで、変な取材されずに済んだし!」

『でもご主人〜、レッドさんのこと、思いっきり訊かれてましたよ。』

「スルーしたから!!」

『レッドまで取り囲まれてたら、厄介ね。』

「だだ、大丈夫だよ、レッドだし!!」

きっと囲まれても難なく逃げてくるよ、というか逃げてきてお願い。
オーラが飛び出してきた窓からホテルの室内へ滑り降りて、ようやく一息つく。暫くマスコミやり過ごしてから、レッドを捜しに行こう。
連絡手段がないことに不便さ感じたのなんて、初めてだな。私もポケギア欲しいなぁ…。


ピリリリリッ!


「わっ」

突然に鳴き始めたポケギアの音に驚いて、腰かけていたベッドが跳ねる。
正確には私が飛び上がったせいでスプリングが揺れた、だけど。
というかレッド、ポケギア持ってかなかったのか…。
発信者は、やっぱりグリーンさんなのだろうか。

『これは、どこから音が出ているのでしょうか?』

リクが慎重にポケギアを持ち上げて、裏返したり回したりして興味深そうに眺める。
初めて森の外に出たリクにとって、人の作り出したものは何であれ新鮮なんだろうけど、他人のものを勝手にいじくるのは戴けない。
一言注意しようと振り返ると、その時、ピッという嫌な音がした。



まさか…。



 
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