きみとみる世界

□衝突、ホドモエジム
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カンカンカン、と、二人分の足音が鉄骨を揺らす。

ジムトレーナーである作業員達のいる広めな足場の間を渡しているその鉄骨の下は、真っ黒な闇が大口を開けているばかり。

闇からは強い風が吹き上げ、今までここに挑んだ幾人ものトレーナー達は、何度かヒヤリとさせられてきた。

しかし今、鉄骨の上を道路を歩くのと同様な感覚で走り、ジムトレーナーを蹴散らす勢いを見せている二人の挑戦者には、そのような風など最早何の障害ではない。

挑戦者達の目的は、眼下に広がる闇の下。そこで待つ、たった一人のトレーナー。

「「みずでっぽう(!)」」

それぞれ別のトレーナーを相手にしていた二人の声が重なり、次いで迸った水音が高い天井に響き渡った。


◇◆◆◇◇◆◆◇


「え、ヤーコンさんは今いらっしゃらないんですか?」

「はい、申し訳ないのですが…。」

言って、作業員兼ジムトレーナーの男はヘルメットを取って頭を下げた。
僕と、ホテルを出てすぐに合流したヒビキは、ルーナより一歩後ろで話を聞いている。
男の後ろに見えるジムの入口と思しきものには、しっかりとシャッターがしてあった。
遠目からでも明らかに閉まっていると見てわかるジムに近づいて、今ルーナと話している作業員に声を掛けられたのは僕なのだが。

「あー、そうですか〜…。すみません、ありがとうございました。」

「いえいえ、彼らがまたここに挑戦しにくる時を楽しみに待ってますよ。
道中、気を付けてくださいね。色々と。」

最後に含みのある声と笑顔を見せて、おじさんは仕事場へと戻っていった。

「そういやさっき、ポケセンで記者見たっす。追い回されないよう気を付けないといけないっすね。」

おじさんの背中を見送りつつ、ヒビキは帽子を被り直して言う。どうやらヒビキも、ルーナの事情を知っているらしい。

いちいちこいつに負けているのが、なんか悔しいな。

「なら、早く出よう。」

僕も帽子の鍔を下げて、草の繁る道路を見る。
ホドモエから次の街…フキヨセシティに行くには、ネジ山という山を越えていくらしい。
ここのジムリーダー、ヤーコンが今いるのがこのネジ山らしいが、通り抜けるルートからは大分離れているそう。

只今の時間、午前10時40分。山に入るのにはベストな時間帯だと思う。
外が暗いときの山には、絶対に足を踏み入れない方がいいのだ。たとえフラッシュを使えるポケモンがいたとしても。

「えっと、何か用意したいものがある人〜。」

「俺はさっき買ってきたんで平気っす。」

「……。」

本当は寄りたいところがあったけれど、無理に行ってまた捕まるのは御免だ。
この街での入手は諦めよう、ライブキャスター…。

「ん、じゃあ…い、行こっか。」

しどろもどろになりながら僕達二人にそう言って、ルーナは逃げるように踵を返した。
ショルダーバッグの持ち手を握る手に力が入り、ずんずんと歩いていく後ろ姿がなんだか可愛らしい。多分恥ずかしがっているんだろうと思われる。

ヒビキを見ると、ヒビキもまたルーナを見てくすくすと笑っていた。

「ルーナちゃんルーナちゃん、そんな恥ずかしがることないっすよ。」

「〜…!」

ヒビキがそう言ってからかうと、目の前の背中が少し縮こまり、髪の隙間から少しだけ頬が見えた。
膨らんでいるらしいそれは、真っ赤になっている。

今まで見たこと無い表情だ、それに、頬を膨らませて拗ねたり怒ったりする人なんて初めて見た。
やっぱりルーナかわいいよルーナ。


「……やっぱり私、ヒビキ君苦手。」

瞬間、小さく呟かれた空気の音が、僕の耳を掠めた。
思わず、耳を疑ってルーナを見る。

……苦手?

ヒビキが?

いや、都合のいい聞き間違いかもしれない。
耳を澄ませてみたけれど、もうあの呟きは聞こえなかった。
当たり前か…。

耳を澄ませるのは止めて、もう一度ルーナの背中を見た時だった。


「よう、なーに膨れっ面して歩いとるんだ、ルーナ。」

「!!」

横から、おっさんの声が降ってきた。

斜め前方の高台。

赤い髪の毛を、まるで絵に描いた太陽のように逆立て、6つのモンスターボールを紐で繋いで首にかけた、超目立つおっさんが、仁王立ちでこっちを見ている。

固まる僕達、ひそひそと話始める人々。
こっち見んな。

「アデクさん!?」

ルーナがおっさんを見て、驚いたように声を上げる。
おっさんはおうよ、と笑うと、ルーナの目の前に飛び降りた。

「元気してたか小娘!しかしまあ暫く見ない間に、やるようになったのう!!」

がしがしとルーナの頭を撫でて、おっさん――アデクは僕とヒビキを見て笑った。
なんと言うか、うるさいおっさんだ。

「…あの、アデクさん。後ろの二人は、ただの旅仲間なんですけど…。」

ぐしゃぐしゃにされた髪を撫で付けながら、困ったようにルーナ。
笑ってはいるが、珍しく少し機嫌が悪いようにも見える。

「はっはっは!!そうか、まだ旅仲間か!残念だのう少年達!」

しかし全く気にした風もないおっさん、げふんアデクさん。
両手を腰に置き、豪快に笑うのを聞いた後、ルーナが口を開いた。

「えっと、二人とも会ったことなかったよね。こちらはイッシュチャンピオンのアデクさん。
アデクさん。二人は、ジョウト地方チャンピオンヒビキ君と、カントー地方から来たレッドです。」

「ヒビキっす。」

「レッド。」

「わしはアデク。遠い地方からよく来たな、歓迎するぞ。
さて、二人はクエイクバッジは手に入れられたのかの?」

クエイクバッジ…、ホドモエジムのバッジだろうか。

「あ、いえ。今ヤーコンさんが不在らしくて。後三日は戻らないと話を聞いたので、先にフキヨセに行こうとしていたんですよ。」

「ほう、なるほど。
で、ジェットバッジを入手後にまた戻る、と。」

「はい、そのつもりですけど…。」
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