研究所奮闘日記〜仕事より大変なのはちび共です〜

□曇り。春の海はまだ冷たいです。
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あたしは海を眺めるのが好きだ。
寄せては返す波に素肌をさらしながら、ただぼんやりと、海を見る。

昔、お母さんは、海はどこまでも続いているんだよ、と言っていた。
海はどこまでも続いているから、きっとどこかに、死んだお父さんもいるんだよ、と。
そんなお母さんは、あたしがポケモンと旅に出たのを見送って、死んだ。

報せを受けてすぐに帰ったけど、とても信じられなかったっけ。
あたしは、お母さんが大好きだったから。信じたくなかったんだと思う。

今でも、こうして海を眺めていれば、どこかでお母さんがお父さんと一緒に笑っているのが見えるんじゃないかって期待してしまう。
だから、あたしは一人、海を眺め……

バッシャアアアァ!!

「ぶわーはっはっは!リンカずぶ濡れー!!何やってんだ、ここだけ高波でも来たのかー?」

「グリーン、うるさい。水ポケモン逃げる。」

「っ、あんたはっ…、人が真剣に思考に耽っている時に〜…!!」

折角作り出した真面目な雰囲気が、超局所的高波によって台無しよ全く!!
しかも海水掛けやがった。

レッドくんはズボンが濡れるのも構わずバシャバシャと海に入り込んでいるけど。

やがて一匹のヒトデマンを拾って遊び始めた。

「レッドくーん、遊ぶのはいいけど気を付けなさいねー!」

「レッドくーん、だってさ。くひひっ」

「じゃあかしい。」

そのウニ頭に一撃を加えて、ボールからウィンリーを出した。

しかしぐでっている。
確かに元がめんどがりだから仕方ないっちゃあ仕方ないけど…。

「ウィンリー、あたしちょっと着替えてきたいから、レッドくん見ててあげてくれる?」

「ピジョ〜?……ピジョ。」

かったるそうに首を上げたウィンリーはヒトデマンと(で)遊ぶレッドくんを見つけて、まあ一応返事はしてくれた。
こういうときに一番頼りになるのはイヅナなんだけど、今は博士に貸している。

「メガトンパーンチ!!」

何故かいきなり腹にパンチが飛んできた。軽く受け止めて肩口にカウンター。

「カラテチョップ。…あのねえ、これをメガトンパンチとかなめてるでしょ。
もーちょっとマシなの出しなさいよね。」

「よっしゃ、じゃあにどげりー!」

「甘いっ!」

海水掛かった服を何とかしようとしていたのに、ここでグリーンくんと遊び始めたのがダメだった。
何で遊んじゃったんだろ。

とにかく、二人でばしゃばしゃと水を撥ね飛ばしポケモンの技真似をしていたら、突然背中に鈍痛がきた。

「スピードスター」

「いたぁっ」

鈍器「ヒトデマン」を持ったレッドくんがにこっと笑う。
前回あたしにハイドロポンプ食らわせた時には全くの無表情だったくせに、ヒトデマン刺してなぜ笑う?!
しかもさらにぶっすぶすと刺してくるときた。
ヒトデマンも全くされるがままなのがすごい。

「ちょ、いたたっ、レッドくん!ヒトデマン『で』遊ばないの!」

「このヒトデマン、おとなしい。」

「理由になってなーい!!放したげなさい、その子弱ってるわよ。」

ピコピコとコアが点滅している事を指摘すると、レッドくんは慌ててヒトデマンを海に帰した。ちゃんとごめんなさいも言った。うんいい子。

「レッド〜、お前さっきのスピードスターよかったぜ!」

「いくない!ポケモンで人を刺すとかもう二度とやっちゃダメ。でもなんで複数回刺してきたの!?」

お仕置きの意を込めてぐりぐりと頭を小突く。
レッドくんは顔を上げると、こてんと首を傾げた。

「スピードスター、星いっぱい出てくる…。」

うんまあ…
「スキありーー!!シャドーボール!」

ゴッ!!!

「でっ!?」

グリーンくんの投げた何かが、頭に直撃した。
当たり処が悪かったのか、ぐらーりと視界が傾き、見えたのは黒いスーパーボール(よく跳ねるあいつだ)。

ばっしゃーん!

「リンカー!!?」

結果、海に落ちた。
あーあ、このあと仕事なのに、どうしてくれるんだ…。
あたしだって暇で海見てた訳じゃないのよ。
海の向こうから伝書ポッポが博士宛に手紙持ってくるっていうから、頼まれて待ってたんだよ。
しかもまだポッポ来ないし。

「ピジョッ」

ざばー。 ウィンリーに襟首くわえられて引き揚げられた。
ありがとうウィンリー。
ん、その背中に可愛らしく止まっているのは…。

「リンカ君、ポッポは来たかね…、何があったんじゃ。」

オーキド博士…いいタイミングで来てくれました。
今の状態を解説すると、ずぶ濡れでピジョットにくわえられたあたしに、両サイドで固まるレッドくんとグリーンくん。

「ポッポ…来ましたよ博士。ウィンリーの背中に乗ってます。」

た…助かった…!
ポッポは博士の方へと飛んでいき、腕に止まる。
確かに手紙を持っていた。

「ふむ、ご苦労さんじゃった。早くシャワーでも浴びなさい。それとグリーン、後でわしのところへおいで。言うことがある。」

ぎくりと体を強張らせるグリーンくん。
まあ、頑張れ。
そういえばレッドくんも濡れてるな。一緒にシャワー浴びるか。

風邪は引くもんじゃないからね。

――――――

字数がギリギリです(汗)

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