研究所奮闘日記〜仕事より大変なのはちび共です〜

□快晴。チーズがもうなかった。今度買わなきゃ。
1ページ/1ページ


「イヅナー、イーヅーナ〜?」

イヅナがいない。
どこ行ったんだろ、呼べばすぐ来てくれるのに。

きっとちび共に捕まってるんだろう。特にレッドくんはイヅナをなっかなか手離そうとしないし。

「どうリンカちゃん、イヅナいた?」

「やー、それが居なくてですね。きっとちび共の所に居るだろうからちょっと迎えにいってもいいですか?」

「勿論いいよ、今の研究はイヅナがいないとどうにも捗らないから。」

研究者のカズトさんがすまなそうに笑う。
只今の研究内容は、ピカチュウの生態について。
ピカチュウはトキワの森に生息しているが、用心深くあまり人に姿を見せてくれない。
そんな訳なので、データを取るにしても、フィールドワークにしても、イヅナがいるとやり易いんだそう。
いい兄ちゃんでしっかり者だから、上手く落ち着かせたりまとめたりできるんだろう。
我が相棒ながら誇らしい。

「じゃあ行ってきまーす。」

ガチャッとドアを開けて外に飛び出す。

飛び出す、筈だった。

ギィイイイ…、バタン。

「「!!?」」

あたしがドアノブに触れたとたん、ドアが重苦しく鳴き、倒れた。

ちょっ…と待て。
こんなことする奴なんて一人しかいないけど、先輩から見たらあたしがドア壊したみたいじゃん!!

確かに素手でポケモンの相手余裕よ、オコリザルにも勝っちゃったことあるわよ!

だけどね…自分の力抑えられずに物破壊しまくるバカじゃなーい!

「あー…、やっぱり凄い力だね、リンカちゃ…」

「いやいやいやあたしじゃないです断じて違います!!!」

やっぱり誤解してたっ!!

まったく、今日もお仕置きが必要なようだな…、覚悟しやがれウニ頭。

さてさて今日は何の刑にかけようか。
ウィンリーに乗せてフリーフォールの刑か、それとも吊る下げて海面ギリギリ飛行か。

いや、でもどっちにしろ逆に楽しみそうだな…。
無難にぐりぐり刑か? まあいいや、後で考えよう。

「ぴいか!!」

倒れたドアを踏んで外に出ると、左手側からイヅナの声。
見ると案の定、しっかりとレッドくんの腕に抱えられていた。

「レッドくん!丁度よかったー、ちょっとだけ、イヅナ返してくれる?」

「やだ」

きっぱりと、NOのお返事が返ってきた。
ううむ、今の返事を全国のNOが言えない人々に聞かせてやりたいぜ。
この拒絶を聞けば、未成年に酒を勧めたりするよーな酔っ払いオヤジでもすぐに黙るでしょう。

「レッドくんお願ーい、イヅナの力が必要なの…」

「やだ」

「用が終わったらすぐに返すから、」

「やだ」

「もう、イヅナ、戻ってきて〜!」

「ぴぃか〜…。」

レッドくんに話つけようとしてもやっぱ無駄だった。
グリーンくんが連れ回して遊んでるんなら、一回引き離せば不服そうにしながらも渡してくれる。

しかしレッドくんだ。

好きなものは離さないレッドくんだ。

今までどうやってイヅナを取り返してたんだか判らなくなるくらいイヅナを離さないレッドくんだ。

レッドくんなら仕方ない、で片付けられない。仕事だから。

だけどイヅナはレッドくんがほっとけないのか、困ったようにあたしを見ている。

まるであたしか悪者みたいじゃないか!

ああほら後ろでカズトさんも渋い顔してるよ。
渋い顔しながらも温かい目でみてくれてるよ。
『もういいよ』ってやんわり言ってきそうな雰囲気だよ!

「いいよリンカちゃん、遊ばせてあげて。」

「いいえ、ずっと遊ばせてたらイヅナがいつの間にかレッドくんのになりますんで。」
冗談じゃなく。

とりあえず根気よく説得しよう、そう地面に足を踏み出したときだった。

「うおわああ!!!」

地面が、抜けた。

「よっしゃかかったーー!!
つーか可愛くねー声!!リンカって本当に女かよ!」

あたしが落とし穴に落ちると同時に、近くの茂みからグリーンくんが飛び出してくる。

ゲラゲラと笑うグリーンくんはまずスルーして、レッドくんへと顔を向ける。

「共犯、だったの?」

「イヅナ持って、ここに立ってろって言われただけ。」

レッドくんは正直だ。あたしはこう信じる事にしている。

「ウィンリー。」

ぽん、といつも通りぐでっているウィンリーを繰り出し、笑顔でグリーンくんを突き出す。

「ウィンリー、空飛んできていいわよ。ちょっとこいつ乗るけど。」

きらりっ、とウィンリーの目が輝いた。
めんどがりだが、人を乗せて空を飛ぶのは大好きなのだ。

ただし、恐怖体験は回避不能。

「え?乗せてくれんの?!なんだぁ、おれてっきりいつもみたいにぶん殴ってくるかと思った!短気が直ったのはおれのおかげたな!!」

ウィンリーの背中でふんぞりかえるグリーンくんをお望み通り殴りたくなるのを我慢。
テキトーに うんうん、グリーンくんのおかげだよー(棒)
と返して、ウィンリーを見送る。

さあ、ウィンリーの自由飛行を思う存分楽しんでおいで!

「さあてレッドくん。イヅナはこれからお手伝いだから、レッドくんも一緒にお手伝いしよ?
これならいいでしょ。」

イヅナをちょっと見て、こくんと頷くレッドくん。
いい子いい子と頭を撫でて、カズトさんのところへ連れていった。

グリーンくんは暫くしてから青くなって帰ってきた。
お帰りー、と呑気に迎えたあたしにがばっと抱き付いて、消え入りそうな声で言った。

「今度は…リンカ姉ちゃんも…一緒に乗って…。」

…ちょっと、やり過ぎたらしい。


―――――

ウィンリーは生き生きしてます。

 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ