研究所奮闘日記〜仕事より大変なのはちび共です〜

□雨。つくろうか、てるてる坊主
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本日の天気、雨。
しとしと雨じゃなく、ザーザー降る雨だ。
でもあたしは雨は嫌いじゃない。雨音をBGMにカリカリとペンを動かすのって、なんか心地良い。
いつもは後ろでうるさいちびーズは今日来てないので、雨音と周囲であたし同様に仕事をしている先輩方の話し声だけが聞こえる。
うん、何だか充実感。

「よっ…、と。」

ハードカバータイプの分厚い本を三冊抱えて立ち上がり、別の本と取り替えるため書斎へ。
鼻歌を歌いながら書斎のドアを開けると、


▼あ! 真っ白な 物体が 飛び出してきた!


「…何やってんのよ。」

「あいてっ!!」

ごすっ、と持っていた本をその脳天に乗せるように叩くと、頭を抑えてしゃがみこむ白い物体もといシーツを被ったグリーンくん。
いつ来たんだろう、というよりどこから拝借してきた、そのシーツ。

「いてーよ暴力女!」

「そんな力入れてないわよ。ちょーと頭に本乗せただけでぴーぴー言うんじゃないの。」

ばさっ とシーツを脱いだグリーンくんのおでこに軽くデコピンをお見舞いして、本を元の場所に戻すべく本棚と向き合う。
当然だけど書斎の本は研究所の人々共通の資料。どこにどんな内容の本が入っているか、細かく分類され収まっているのだ。

入れてあった場所のメモを書くくらいしないと、絶対にあたしはしまう場所を間違える。

助手の仕事とゆーものは、このように細かいところに妥協していては務まらないものなのだ。

「ええ…、と、三番目の棚の…ポケモン飛行論の隣……ん?」

この棚にはある筈もない本がぽつーんと立っている。
何々、『カントー地方の歩き方』…。こんなのをここに持ち込む人物なんて、二人だけだ。
ここにレッドくんの姿はないので、まあ間違いなく、グリーンくんだろう。

「グリーンくん、ちょっとおいで。」

「んあ?何だよリンカ。」

ずるずるとシーツを引きずりながら近くにやって来たグリーンくんに、マップ本を突き出す。
これあんたが持ってきたんでしょ、と目で訴えると、グリーンくんはふるふると首を横に振った。

「じーちゃんに怒られるから、ここの本棚にはどっかから持ってきた本なんて入れねーよ。
レッド置いてったんじゃねーの。」

ふむ、結構真面目な目をしていたから本当の事と受け取っておこ。
じゃあレッドくんはどこだ?

「あ、おいレッドー。」

てててっとグリーンくんが走る先にレッドくん見っけ。片手に水性顔料ペンが握られているけど、いつも通りの無表情。
かくん、と首を傾げたレッドくんに、グリーンくんがあたしが持ったままのマップ本を指差し言う。

「あれお前が持ってきたやつだろ?」

「うん、家から、もってきた。」

こくんと頷き、あたしのところへやって来た。返して、と短く言って伸ばされた手をとり、あたしはレッドくんと真っ直ぐ目が合うように立ち膝になる。

マップ本が本棚に紛れているのは直ぐに分かるし、はっきり言って仕事に支障はあまり出ない。
でもきちんと注意を入れることは、オーキド博士の助手であり研究所の一員であるあたしの使命の一つなんだろう。
なんだかんだで、研究所のなかでオーキド博士の次にこの子達と親しいんだろうし。

「レッドくん、マップ本はここにいれちゃだめ。マップ本だけじゃなくって、他の所にあった本をここの本棚に入れるのは、何であろうとだめだからね。」

わかった? と続けると、こくんと頷いてわかったと言う。
次いでグリーンくんをじっと見て、何か言いたげだ。

「なんでそんなの、かぶってんの?」

ああそれはあたしも気になってた。レッドくん、ナイスクエスチョン。

「これか?早く晴れるように、てるてるぼーずの真似!!」

「「てるてるウニの間違いじゃないの。」」

おっと口が滑った、そしてレッドくんと一字一句違わずハモった。
なんだとー!!と怒るグリーンくんは…宥めておこう。怒ったまんまだと、案外と面倒くさいのだ。
だがツワモノレッドくん、そんなグリーンくんは華麗に無視して、マップ本をぱらぱらと捲る。

「ごめんてばグリーンくん、ちょーっと口が滑っただけだって。」

「るせー!どーせウニだよ、生まれつきだよ!刺すぞうらぁ!」

訳の分からないことを言いながら、頭突きの連撃を繰り出してくる。威力は大したことないけど、涙声に聞こえるのは…気のせいじゃ、ないね。
ウニ頭は本人も気にしていたらしい。
悪いこと言っちゃったなあ。

「グリーンくん、グリーンくん。」

「なんだよぉ〜!」

シーツに顔を押し付けているせいで、声がくぐもっている。

「一緒にてるてる坊主、つくろ。」

グリーンくんがもぞっと顔を上げた。やっぱりちょっと涙目。

「雨は好きだけど、晴れてる方がいいなら手伝ったげる!」

にこっと笑い掛けて、裏紙使用予定(主に皆のメモに使われる)の紙を数枚持ってきてあげると、グリーンくんもようやく笑った。

「お前、てるてるぼーずはティッシュか布で作るのがふつーだぜ?」

「資源の無駄でしょうが。コレでもうまくやればきれいにできんのよ。」

ほんとは仕事あるけど、遊びに付き合ってからでも間に合うし。ていうか間に合わせる。

「…できた。」

ぱちんっ、と背後でペンのキャップを閉める音がすると共に、レッドくんがマップ本を持って立ち上がる。
こっちに近付いてくる。なんだか嬉しそうだ。

「うまくかけた。」

それだけ言ってあたし達にマップ本を広げて見せるレッドくん。
そこには無惨にも落書きされたパルシェンが…。右上に書いてある文字は…『ぐりーん』…?

あたしが返答に窮する横で、グリーンくんはぶるぶると震えている。
不思議そうにグリーンくんを見るレッドくん。

あ、これまずい。

「グ、グリーンくん、レッドくんに悪気は…」

「お前なんか嫌いだーっ!!!」

うわあああん!!と叫んで、グリーンくんは外に飛び出して行ってしまった。後には、ぽかんと立ち尽くすレッドくんが。

「ぼく、なんか悪いこと、した…?」

「デリカシー、身に付けようか、レッドくん。」


―――――――

最近のグリーンくんがなんかかわいそう

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