研究所奮闘日記〜仕事より大変なのはちび共です〜
□晴れ。思い出してみた。
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「ちょっとあんたら何してんのよこらぁっ!!!」
「「紙飛行機。」」
あー、こんにちは、あたし、リンカです。
そして今日もまた研究所にやって来た二人を叱っています。
皆さん温かい目で此方見てますけど、あたしとしては今の状況には怒るしかないわけで。
ウニ頭のグリーンくんが、やれやれとでも言うように肩を竦めて半目になる。
「なんだよ、別に水鉄砲使って遊んでるわけでも、本投げしてる訳でもないだろ?紙飛行機で怒るとか、リンカの短気も…」
「ちっがーーう!!
大体、また水鉄砲持ち込んだり本を枕のように投げ飛ばしとかしたら、簀巻きにして家まで強制送還の上立ち入り禁止よ!!
あたしが今言いたいのは、その紙飛行機作ってる紙よ、紙っ!!」
ビシィッ! っと指差した先には、きょとんと手に持った紙飛行機を見るレッドくん。
グリーンくんは両手を後頭部に回し明後日の方向を向きながら、ヒューヒューと口笛のなり損ないな音を出す。下手くそ。
頭にハテナを浮かべ、しげしげと紙飛行機を眺めるレッドくん。気付いて、その紙飛行機の表面が折り紙と明らかに違うってことを。
「?」
あたしを見て、無表情のまま首を折るいたいけな少年。
うん、本当に彼はいたいけ、だ。
ふかーくため息をついて、その紙飛行機をあたしに投げてくれるよう頼むと、あろうことか全力投球してきた。
しかも投げ方も上手かったのかスピードが力と比例してるときた。
キャッチする間もなく、ぐさりと先っぽが瞼に当たる。
「ちょっ、危な!!」
「そらをとぶ〜。」
にこーって純粋かつ輝く笑顔しないのそこっ! こちとら失明の危機だったわ!!
ヒトデマンで遊んだときといい、なんであたしに直接危害加える度に笑うかなぁ。かと思えばハイドロポンプの時は無表情だったし。
まあそれは置いといて。
Sか?子供にSもMもないと信じたいけど、まさかSの鱗片持ってるの?この年で?
「10年後が恐ろしいわ…。」
再びふかーいため息をついて、紙飛行機を伸ばしにかかる。
グリーンくんが何すんだよ! とふざけ半分で怒ってきたけど、それはこっちのセリフだってーの!
しかもふざけ半分。
ふ ざ け 半 分 。
分かってたけど確信犯ってのが分かって、無性にイラッときた。
「ねえ、これ、不思議な折り紙だね〜、正方形じゃない折り紙って、あたし初めてみたわぁ。」
ぐちゃぐちゃに折り目がついた紙をぴらりと二人の前に出して、にこにこと言う。
そんな皮肉にも、負けじとグリーンくん。
「ああ、だからつい使っちまったんだ〜、ほら、珍しいポケモンも使いたくなるじゃん?」
「あれれ、グリーンくんはそんな珍しいポケモン持ってるの?見たことないな〜、見たいな〜?」
笑顔で火花を散らす傍ら、レッドくんはつまらなそうにあたしたちを見ていた。
取り残されて面白くないのか、白衣の裾を引っ張って来たけどそれどこじゃない。
「いーじゃねえか、ろんぶんの一枚二枚紙ひこーきにしたって…」
「い、い、わ、け、な、い、でしょうがこのウニガキーーーーっ!!!!」
「わゃあああいねねねねね!!はな、はないねーよ、はな!!(わあああいででででで!!鼻、鼻痛ーよ鼻!!)」
「人が必死に書いた論文折って紙飛行機にするとか!!
あたしのじゃなかったらどうするつもりっ!?」
そう、二人が飛ばして遊んでたのはあたしが書き上げた論文の一ページ。
書斎のハードカバーな分厚い本を、何度も何度も取っ替え引っ替え繰り返し、うんうん唸りながらようやく完成させたものだ。
それを紙飛行機にされてどっかに無くされでもしたら、本気で泣ける。
紙がぐちゃってるだけならまた書き直せば済む話だけど、それで妥協してやれるのは対称があたしだったからだ。
これがカズトさんやクルミさん、はたまたオーキド博士が書いたのだったら、想像するだに恐ろしい。
いや、皆さんお優しいから笑って許すかもしれないけど!
あたしのようなしたっぱ助手が書いたのとはデキってものが違うんだ、うん。
ばさあっ
布が捲られる音がした。
グリーンくんは目の前にいるし、レッドくんなのは分かってる。
さっきまでしつこく白衣を引っ張ってたのに総無視してたから、方針を変えたんだろうか。
とりあえずグリーンくんの頭をぐしゃぐしゃして、今だ白衣を持ち上げているらしいレッドくんを見る。
「はいはいレッドくん、君も紙飛行機はちゃんと折り、がみ…」
なんであたしの言葉が止まったかって?
そりゃあ、
「ぶはっ!!!?レッドお前何スカートをカーテン捲るみたいに!!
何色だ何色!」
「…く、」
「いつまで捲ってんのよそして無表情でスカートの中見るなエロガキ!!!!!!」
「……先にめくったの、グリーン。」
それいつの話よっ?!!確かに度々グリーンくんは捲ってきたさ。ああ捲ってきたさ!
だからってねレッドくん、グリーンくんの方がエロガキ歴長いのは確かだけど、君がエロガキ認定されないワケじゃあないんだよ。
そーいやグリーンくんは初対面で捲ってきたんだよな〜…。
忘れもしない、約一月前。
初めてマサラタウンにやって来て、ずっと夢だった助手として研究所に足を踏み入れ、これからの期待と不安からくる緊張でガラにもなくガチガチになっていたあたし。
そんな緊張を怒りと恥ずかしさで見事に吹っ飛ばしてくれたちび共との出会いを、二人を研究所からつまみ出しながら思い出してみた。
―――――――
To-be continued!▼
続きます(笑)