研究所奮闘日記〜仕事より大変なのはちび共です〜

□快晴。まっさらな町に来たあの日
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白地の看板に、黒の文字。

草原を抜けた風がサァッとあたしの背中を押して、頬を掠めた緑の草の葉が、空の青に溶けた。

___マサラタウン。

これからのあたしの、始まりになる地。
民家がちらほらと建っている田舎な町並みを眺めながら感慨に浸っていると、ボールが開いて相棒のイヅナが飛び出してきた。
柔らかそうな草の上からあたしを見上げるイヅナを肩に促し、マサラの風景を見せる。

「イヅナ、見てごらん。マサラタウンだよ。」

再び優しい風が吹いて、イヅナの耳や尻尾をふわふわと揺らす。
気持ち良さそうに一声鳴いて、肩の上で二足立ちになって町を見るイヅナの様子を見ると、どうやらこの新しい土地は彼の気に召したようだ。
もっとこの風を受けて立っていたいけれども、いつまでもこうしては居られない。


目を閉じて、深呼吸。


ゆっくりと息を吐ききり、ぱっと目を開いて、前を見た。

「さ、行こう!いくら今日の内ならいつでもいいって言われてても、着いたからにゃあ早く向かわないとね!!」

「ぴかぴか!」

走り出すと、イヅナはぴょんと肩から飛び降りて、あたしの後ろを走ってくる。
あたしが目指す場所、それは

「きっとあれね、オーキド博士のポケモン研究所!」
















「はは、はじめまして!リンカといい、ます!!」

………うわぁ、噛み噛みだ…。

あたしの前に座っている先輩(研究員さんだから先生?)方が、温かい目でぱちぱちと拍手をしてくれる。
そんなに緊張しなくていいよ、って聞こえてきそうだ。


「そんなに緊張しなくても大丈夫じゃよ、リンカ君。」

嗚呼、本当に聞こえてきた。
声の主は、この研究所の最高責任者であるオーキド博士。
オーキド博士と言えば、ポケモン研究の第一人者と言っても過言ではない。
そして、あたしの一番尊敬する人物である。
他の先輩方に言われても恥ずかしいのに、オーキド博士からの言葉となると、もうあたしの頭はパニック状態だ。

足元にいたイヅナが肩の上に登ってきて、しっかりしろと言うように頬っぺたを抓ってくれる。

「ぴーかー!」

「いひゃひゃ、いひゃいよいうなー!!」

単純に、痛い…。

「ほっほっほ! ピカチュウも励ましてくれているようじゃのう!!」

オーキド博士と一緒に、先輩方もあたしとイヅナのやり取りを見て笑う。初日からこんなに笑われちゃってまあ…、
あたし大丈夫かな…。今更ながらに不安になった。

「博士、リンカちゃんに研究所を案内してあげませんと。」

「おお、そうじゃった! 大事な事を忘れておったのう。ありがとうクルミ君。」

ほ、これで一旦落ち着ける…

「じゃあ行くぞい、リンカ君。」

「えええお、オーキド博士が案内して下さるんですか!?」

「む?何か問題でもあるのかね。」

「いいいえありません!まさか博士直々に案内してくれるとは思っていなくてっ!!」

ていうか、さっきから慌てすぎだ、あたし。
これではとても失礼じゃないか。

深呼吸して落ち着こう…。


「…落ち着いたかね?」

「は、はい。では、お願いします。」











「…で、さっきのここが、休憩室。これで研究所の主な部屋は全部じゃ。」

「は、はい。ありがとうございました!」

「いやいや、礼には及ばんよ。
リンカ君には、明日から仕事を手伝ってもらおう。
今日は研究所内をもう一度見て回ったり、マサラタウンを散歩したりしておいで。
あとこれが、リンカ君の部屋の鍵じゃよ。」

ちゃり、と手渡された鍵を見て、今更ながらここで働くんだという感慨が湧く。
ようやく立てた、夢だった場所。

鍵をぐっと握りしめて、博士にお辞儀をする。

「オーキド博士!よろしくお願いしま…」

ばさあっ…!!!



え、あれ、ん?
なな、何の音…?

なんかこう、布が捲られて、一瞬太ももが涼しくなって…

「へへーっ!!知らないねーちゃんのぱんつピカチュウーー!」

………、え゛っ!!!!?

「これグリーン!!!お前はなにしとるんじゃっ!」

「あ、やべっ、じーちゃん!」

じーちゃん!?

おいちょっとまって。今あたしのスカート捲ってきたのって、間違いなく、このウニ頭なわけで…。

「ぴか!」

横からイヅナの声が聞こえてきて、ギギギィ…、とそちらを見る。
居たのは赤い服装、赤い眼の、無表情な男の子。
イヅナはその子の腕に抱えられていた。

「……だれ。」

ぼそりと、男の子が呟いた。

それは此方のセリフでもあるけど、あまりの衝撃に男の子を凝視することしかできない。

ただ普通の時に捲られたんなら、驚きの一声だけで済んだに違いない。

でも全ては、タイミング一つ。


「そーいやお前、誰?」

聞くタイミングおかしいでしょ!!?

「彼女はリンカ君。今日からここで働くことになった、助手じゃよ。」

「…ふーん。」

無 関 心 ―――――?


……――ぶちっ!

「……ちょっとそこの少年…?」

「は?少年じゃねーよ、おれさまはグリーンだ!!」

グリーンくんか。

のんきに胸なんて張っているけれど、分かってる?


……君はあたしを怒らせた





「初対面で女の子のスカート捲るとは何事じゃこのーーーっ!!!!!!」


この日、初めてグリーンくんにこめかみぐりぐりの刑を執行した。

オーキド博士も、クルミさんも、カズトさんも、ヒロキさんも。
みんな呆気に取られてあたしを見ていたことなんて、このときのあたしは気付く余裕さえなかった。



そしてこの一件から、何故かあたしはグリーンくんやレッドくんから、イタズラを受ける日々が、始まったのである……。




(こほん。あたしはリンカ。今日からこの研究所の助手として働くことになりました。)
(おれさまはグリーン……)
(レッド……)

(さてグリーンくん。あたしに何か言うことは?)
(……ごめんなさい。)
(よし、よくできました。)

(……、え?(もっと怒られるかと思ってた…。))



――――――――

はい、ようやく上がりました(汗)
レッドくんが空気すぎる…;

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