短編

□最後の夏休み
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『ねぇ、アイシテルのサインって知ってる?』
『アイシテルのサイン?』
『そう、アイシテルのサイン』
『メット五回ぶつけるやつ?』
『それもなんだけどね、
これはわたしが特別だと思うひとにやりたいの
それがね―――――』




あぁ、懐かしい。そういえばそんな話バイト先でしてたっけ
夏休みも残りわずかになって残暑が残る夏休み後半
俺は毎日のバイトに明け暮れて部活のせいもあってか前とは違う、充実したアルバイトをしていた

名前ちゃんに出会ってからアルバイトを楽しいと思うようになった
めんどくさい、辞めたい、サボりたいなんて思ってたはずなのに彼女を意識して頑張る姿をみて俺も頑張ろうと思ったらバイトが楽しくなった


こんなはずじゃなかったのに、
時刻は10時を回ろうとしていた。


「お疲れさま新名くん」


「あっ、お疲れっす」



裏でタイムカードを押そうとしたら店長が待ち伏せしていた

なーんかバイトで夏休み終わったのか、と店長をみて実感した
あーー、名前ちゃんに会いたい。
暫く会ってない


最近はすっかり受験モードに突入して、バイトも段々と少なくなっていった
部活も顔はみせるけど嵐さんと話してばっかりでふたりで全然話せてない

会う理由が見つからなくてふたりで会えないし


考えてたら落ち込んできてため息をついた




「頑張ってる新名くんに、はい」




顔を向けると店長の手にはスーパーの袋
中をみるといっぱいの手持ち花火



「バイトばっかりで夏らしいことやってないでしょ?
良かったらやりな
夏休み終わるまで休みでいいからさ

本当に助かったよ、ありがとう」




一日一膳、目標にしたのは彼女に出会ってからだ

あぁ、バイト頑張って良かった

ありがとうございます!と笑顔で受け取ってタイムカードを押してすぐに店を出た


会う理由、いいじゃん!花火!
スーパーの袋がガサガサ音をたててドキドキが増す


急いで携帯を開いてメールを送った

にやける顔を、必死に我慢して名前ちゃんの家までノーストップで走り出した





微かな息切れと大きく脈だつ心臓。
月明かりに照らされて立っていたのは名前ちゃんで思わず息を飲んだ

こっちに気づいて優しく笑う



「ニーナ、髪ボサボサ」


「え!?マジで!?
まぁ、バイトだったし
頑張ったの!」



全力疾走で会いにきたなんて口が裂けても言えない。

そっか、偉いね。と笑って頭を撫でてくれた



「じゃあ行こう?
時間やべぇし」


「あと一時間もないねー」



可笑しそうに笑ってる彼女に手を差しのべるとその手を握ってくれた

手から伝わる俺より暖かい体温
ドキドキ心臓が煩くて彼女を見ることが出来なくて。一歩先を少し歩幅を合わせながら川原に向かった




「ここでいいっしょ
ひとつしかできねぇかなぁ」


「そうかもね、
そしたらさ三人でやろう?
嵐と」


「…まぁ、それもそうだね」




嵐さんの名前が出たのは結構ショックでかかったけど、いまふたりっきりならいいかなと自分を慰める

花火を袋から開けて適当にバラせて1本差し出した


スーパーの袋に入っていたライターで火を付けて彼女にむける



「危なくない?」


「大丈夫大丈夫!
俺、男だし!」




ね?とウィンクしてみせたら可笑しそうに笑った

シュッ と音を立てて彩りを見せる花火に名前ちゃんは目を輝かせた



「見て!ニーナ!
綺麗!」


「うん、かなり
…超かわいーし」




最後の声は聞こえないように呟いた

はしゃいでる姿をみるとなんか本当に幸せだなと思えてきた
彼女は花火を1本、俺に差し出した



「ニーナも!」


「…あ、やるか!」



すっかり見とれてて忘れてた

彼女から火を貰って俺の手にある花火も彩りを見せた
何色も変わる花火は二人を照らす

さっきのが終わってしまった彼女は俺の火を貰ってふたつめに突入していた




「受験さ、順調?」


「まぁ、お陰さまで勉強はかどってるよ」


「そっか、
忙しいのにごめん

俺さ、アンタと色んな夏休み楽しもうとずっと思ってた
花火にプールに遊園地に海に
川にいくってのも考えてた

夏休みに入るまえ、たっさん考えたんだぜ?


…まぁでも、俺もバイトばっかで休みなくてアンタとのデート出来なかったの結構ショックだった

だから花火やれて良かったよ」





シュッと消えた俺の手にある花火をバケツに放り込む

彼女の手にある花火も同じぐらいに消えてあたりが急に暗く感じた


花火をもうひとつ取って彼女に渡す
火を付けてあげると立ち上がった




「ねぇ!ニーナみて!」




手持ち花火を持って描いた大きなハートを五回、俺に見せてきた

無邪気に笑って「アイシテルのサイン!」と笑う



―――――― ねぇニーナ知ってる?
―――――― 手持ち花火でハートを五回描くのって
―――――― アイシテルのサインなんだって


思いだした今日の言葉が重なる
自惚れしそうだ




「来年はさ、行こうか!
花火にプールに海に遊園地に川だっけ?
それだけじゃ足りない!もっといこう!

ふたりで!」




自惚れしそう?もういいや
きっとこの子には一生敵わないんだ、俺

来年は俺受験だしアンタも大学で忙しくなる癖に口約束かよ

でも、そんなアイシテルのサインなんてされたらさ、俺だって口約束だと思いたくなくなるじゃん

期待するよ



いまのうちに指切りしとこう
この約束が絶対守れるように


だってふたりってことはアンタにそのときも彼氏がいないってことだろ?

それは俺にとって本当に祝福だよ





「わかったよ!
来年ね!忘れるなよ!」



「うん!」





               最後の夏休み
             ((  卒業してもアンタに会えるのなら俺はそれでいい  ))

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