短編

□無限大
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二十歳になって暫くして、見覚えのあるひとから着信がはいった
わたしは仕事をしていて出れなかったけど電話の主は“志波勝己”くん

わたしの高校の青春は彼でできていたに等しいぐらい彼に惚れていた


卒業の日、勝己はあの灯台にはこなかった
それから連絡とれなくて暫く音信不通だったのだ



「(どうして…急に…)」



最初は無視を決めようと思った

だけど惚れた弱味は大きくて気になれば勝己の電話帳をじっと見つめていた


だんだん耐えきれなくなって通話ボタンを押そうとしたとき、メールを受信した
それは電話帳にうつるあの人からで内容は『学校近くの居酒屋。すぐきてくれ』たったそれだけだった


高校のとき、何度も何度もあのまえにを通ってはいつかここにこようと約束したっけ

財布と携帯をもって気づいたら走り出していた







居酒屋について通された場所は襖が閉まってるだけの軽い個室

中にはいるとまた少しがたいが良くなった勝己が久しぶりと笑った



「どうしたの?、急に…」


「あぁ、まぁ座れ」



なにのむ?なんでも飲めよ

聞きたいのはそれじゃないのに話はどんどん進んだ
なんか流されてるみたいで心境は無茶苦茶
安そうなカクテルを一杯注文して聞くのも呆れたわたしは並べられたご飯を勝手に食べた


それでも気にしない、普通な勝己は笑いながら酒を飲む




「今日は祝いなんだ
呑め」


「…祝い?」



勝己の誕生日もわたしの誕生日でもない

ほどよくアルコールがまわってるのか顔が少し赤い勝己が頷く



「決まったんだ、プロ入り」



「…え?」




お待たせしました。店員さんがわたしの頼んだカクテルを置いていった

急に頭のなかが真っ白になる

なんで?わたし勝己のことがすきでこの2年間誰とも関係を持たなかったのに、忘れられずにいたのに

勝己は離れてくの?


そう、わたしは想ってしまった


あぁ、きっとわたしは最低な女なんだろうな
素直に喜べば可愛いのに




「そっかおめでとう!
すごいね勝己!」



悪魔で表面は優しく喜んでるフリをした

すっかり水滴がついたガラスに触れると酷く冷たくて水滴がわたしの足にこぼれ落ちて冷たい




「じゃあ勝己はプロになって有名になって女子アナと結婚するのかな?

結婚式、呼んでよね?」



「あぁ、きっと有名になって結婚するだろうな」




自分でいった言葉のはずなのに酷く胸に突き刺さる

カクテルの味がわからなくなって机においた
あぁ、なんか泣きそうだ


なにも問題ないはずなのにさっきまで意地はってたくせに


こんなならいまさは会いたくなかった




「高校時代から支え続けたマネージャーと結婚

いい記事じゃねぇか」



「…え?」




でできた言葉は予想外すぎて聞き返すことしかできなかった





「卒業したあの日、中途半端じゃオマエを迎えにいくことなんてできなかった

ちゃんと成果だしてオマエに伝えたかった
勝手にオマエの前から消えてすまなかった

俺はあの日からずっとずっとオマエのために頑張ってきた
これからだってオマエのために頑張る


俺と、結婚してくれ」





低くて、鋭い声
それでも優しい言葉をたっくさんくれるひとだ

なんでも頑張って決めたことは最後までやりとおす男だ

そして、約束だって守るひと



「酒の悪酔い?」


「そんなわけないだろ
ならこれから何度だっていってやる

断っても俺は絶対諦めねぇ

俺にはオマエしかいないんだ
あのときからずっと」



フラッシュバックのように勝己との思い出が頭のなかに流れて
ずるいと思った

だって許せなかったはずの人間なのに酷く愛しくて、許せてしまったんだから





「幸せにしてよね、
今度こそ」



「もちろんだ」




勝己はわたしの横にきて強く抱き締めた


高校の頃、何度もこの胸に抱き締められたかった

何度も彼との思い出を消した
止まった彼との時間はまた無限大に動き出す


そして、優しく優しくお互いを確かめるようにキスをした







             無限大
        ((  あなたに出会えて良かった  ))

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