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□重なる偶然 黒水
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黒水


僕が図書館での用事を終えて校門に向かうと、そこには水戸部先輩が立っていた。

《重なる偶然》



どうやら自転車のチェーンが外れてしまい、立ち往生しているらしい。

「僕にできることがあれば、お手伝いしますよ。」

先輩は少し驚いて、はにかみながら頷いた。

自転車と格闘して30分、なんとか直すことができた。
先輩は僕の方を見て、優しく笑ってぺこりと頭をさげた。
そして、自転車の後ろをさして首を傾ける。

後ろに乗せて頂くということだろうか、

戸惑いを覚えて黙りこんでいると、先輩は少し困った顔をして、でも微笑みながら『大丈夫だから』とでも言うように頷いた。

「ありがとうございます。」

髪が風になびく度に香る家庭的な先輩の匂いと、夏独特の香りが混ざって心地がいい。
僕が掴まる、先輩の背中はいつもより大きく見えてとても安心できた。

自転車がとまったのは、僕の家の前だっ、た。
自転車から降りると、先輩は僕の頭をくしゃっとなで、控えめに手を振って去っていった。



赤く火照った頬がさめるまで、家には入れそうにない。
 

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