ポケットモンスターAW

□第六章
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第6章 現と黒と


〜ラピスラズリ本部〜

カツカツカツ…
テンポよい靴の音が辺りに響く。
相変わらずフードを深く被っている男が思惑を巡らせながら歩いてきた。

シアン「ご苦労ですね、インディゴ」

インディゴ「あっ、シアン様!
どうかしました?」

熱血漢のインディゴにシアンが話しかける。ラブル、28、コバルトの姿が見えないところからして、どうやら4幹部の中、インディゴだけが外出していないようだ。中の仕事を任されていたのかもしれない。

シアン「頼み事があるのです」

インディゴ「何でやんしょ?」

インディゴが少し嬉しそうに聞く。
崇拝しているシアンから直接命令が出るのだ。気分が高揚する。

シアン「少しばかり僕の護衛 をしていただけますか?」

インディゴ「お安い御用です、シアン様。 何処かへ行くのですか?」

シアン「最終切り札の情報を手に入れます」

話を横耳していたトランスが会話に入ってくる。


トランス「おや、ことを急ぐことはないのでは?」

最終切り札 と呼ばれるそれをシアンに教え、それを使うことを望んでいるような発言が目立つトランスが、珍しく制止をするかのような言葉をかける。事を慎重に運びたいのかもしれない。

シアン「28からはよい報告がないし、他の団員からもなかなか…。
事実、敵はたくさんいます。
イッシュのメンバーだけでなく、カントー地方やシンオウ地方など…。」

インディゴ「少し厳しくなってきた…と?」

どうやら、キョウヘイやルミナだけでなく、世界中で抵抗はされているようだ。それでも、幾つかの町は既にラピスラズリの手中にある。
中には抵抗をしない場所だってある。ラピスラズリの思想に賛同する者だって、当然いるのだ。

シアン「うん。僕も本願ではないけれども、世界を変える為です。必ず僕達は成功しなきゃいけない。
…いちよう聞きますが、トランス。
ほんとにそのようなポケモンがいるのですか?」

トランス「えぇ、もちろん。見たでしょう?海底神殿でその存在を」

シアン「あくまで推測にすぎないでしょう、それは。」

ランダやルミナに姿を見せた時に最終切り札 と呼ばれるものの情報を手に入れていたらしい。だが、ラピスラズリ側としては確信はないようだ。

トランス「…それはそうですが。なにせ、 その存在を確実に視認するためには復活させるしかないのですから」

シアン「それもそうですね。本当に切り札になり得るかどうか、少し不安になってしまいました。すいません。」

トランス「やつは絶対、私達の望みを実現させてくれますよ。
で、何処に情報を取りに?」

シアン「言うまでもなく、トランスが教えてくれた場所ですよ。あそこには僕直々に行かなきゃいけないんでしょう?」

トランス「えぇ。」

シアン「それじゃあ、インディゴ、いくよ。ブロスチェイサーで出る」

インディゴ「えっ、あれは28のなんじゃ…。」

シアン「弐号機が仕上がったんです。
さ、早く支度をしてください」

ブロスチェイサー…
それはあの28が乗りこなしていたブロスターにそっくりの水陸両用バイクのことだ。ラピスラズリの努力の結晶の一つでもある。
かなりの速度が出せるだけでなく、最大四人は乗り込めるという優れものだ。まぁ、詳しい解説はそのうち28本人が言うだろうから、ここでは大雑把にだけ説明させていただくとしよう。

インディゴ「了解です!」

2人はブロスチェイサーの弐号機がスタンバイされている車庫へて急ぐ。シアンご本人が動くことはそう滅多にない。果たして、シアンは一体何処へ向かうのだろうか…?また、最終切り札とは一体何なのだろうか…?
確実に、ラピスラズリの計画はその理想の世界へと駒を進めているのだった…。



〜リュウラセンの塔〜

数日間に及ぶ修行も終わり、ランダは神託の村へ行く準備をしている最中だ。
ルミナに連絡するつもりだったが、なかなか時間を見つけることができず、結局神託の村へ行くことは伝えてない。

ランダ「なんやかんやでルミナに連絡しそびれちゃったなぁ」

レシラム‘‘日を改めるのも別に悪くはないぞ?”

ランダ「いや、こんなに素晴らしい天気も珍しいし、ラピスラズリが行動を起こすかもしれない。早めに行った方がいいんと思うんだ。」

レシラム‘‘それもそうだが、そのだな… ほら、あの、何て言うの?”

ランダ「なにさ?急に」

レシラム‘‘いやぁ、その、ルミナも心配してるんじゃないかなぁ って”

ランダ「あぁ…やっぱりそうだよね…。」

スカイ‘‘提案!手紙を俺が届ける なんてどうです?”

ランダ「おっ それは名案!」

ミッド‘‘早速手紙を書きますか”

ランダ「そうだな。」

数十分後…。

ランダ「よし、頼んだよ、スカイ!」

スカイ‘‘任せて!
あっ、どこに戻ってくればいいでしょうか?”

ランダ「俺がいる場所 だ」

スカイ‘‘あっ そーゆーわけですね!
それでは、ベストウィッシュ!よい里帰りを!”

スカイはその勇ましい翼を羽ばたかせはじめた。

しばらくの間の修行で、何か新しい力にランダとそのポケモン達は目覚めたようだ。果たして、どんな力なのだろうか…?

ランダ「よし、みんな戻れ!
レシラム、ゆっくりで頼むよ」

手持ちのポケモンを全て戻し、ランダはレシラムへと乗り越む。

レシラム‘‘では、いざ出陣”

真っ白な翼をはためかせ、レシラムの身体がふわりと浮かぶ。

レシラム‘‘道案内は任せる”

ランダ「了解した!進行方向は北北東だ!」

バサン…バサン…

一眼につかないよう、それなりの高度で飛ぶレシラム。もし、人に見られても鳥ポケモンと思われるだけだろう。伝説のポケモンが自分の真上にいるとは夢にも思うまい。

レシラム‘‘酸素は足りてる?”

ランダ「走らされてたおかげでなんとか」

レシラム‘‘修行の効果が早くも表れてるな。しかし、よく頑張ったな”

ランダ「まぁ大変だったけど意外に楽しかったかも。
強くなる実感あったし」

レシラム‘‘お役に立てて光栄。
…神託の村まではまだかかりそうか?”

ランダ「どうだろう、マップで確認したけど割と近いんだよね。」

レシラム‘‘そうか。まぁ少しお話をしてやろう”

ランダ「おっ。どんな話?」

レシラム‘‘お前の父さんの話 だ”

ランダ「っ!?」

レシラム‘‘驚いたろう?”

ランダ「そりゃ、驚くでしょ!?
な、なんでレシラムが…父さんのことを…」

レシラム‘‘ここ最近はどうも寝かせてくれない。
何100年、何1000と眠っていた余だが、ここ数10年は何度もこの地に蘇っている。そして、その連鎖を最初に始めたのが お前の父 フリードなのだ。”

ランダ「たまげたなぁ…。」

レシラム‘‘我も驚いているよ。こんなにも英雄 になるような人間がいることにも、そして 様々な真実と理想があることをな。
Nや、キョウヘイ、そしてフリード…。皆、お前に負けない頑張り屋さんばっかりだ。”

ランダ「いや、俺はそんなでも…(照)」

レシラム‘‘私に褒められた程度で照れてるようじゃ、ルミナに言われたらどうなることやら…。”

ビューと突風が吹き荒れる。風の音が煩く、一瞬声が聞こえなくなる。

ランダ「えっ?」

レシラム‘‘なんでもない。(風に助けられた)”

ランダ「風で聞こえなかったけど、なんか悪いことを言われた気が…。
あっ それで、父さんはどんな感じだったの?」

レシラム‘‘お前の父さんも面白い奴だった。フリードは……おっと、ここからは話が長くなる。一度下降して様子を見てからにしよう”

ランダ「ん、そうか。」

下を見ると、そこには懐かしみがある風景がランダの目に飛び込んできた。

ランダ「久しぶりだな、神託の村…!」

レシラム‘‘ここが…。素敵な場所だな、ほんとに。自然が豊かで…。
どこあたりで下ろせばいい?”

ランダ「村のど真ん中に広場があるから、そこでいいよ」

レシラム‘‘いや、それは村のみなさんに迷惑なのではないか…?”

ランダ「大丈夫。どんなポケモンだって村は歓迎さ」

レシラム‘‘あまり気が乗らないが、まぁ汝が言うならば”

レシラムはその高度をどんどん落としていく。
着地の際の衝撃を考慮して、ゆっくりと、ゆっくりと。

\ゆっくりしていってね/

ランダのモンスターボールの一つからそんな声が聞こえた。
これを言うのなんて奴しかいないんだが。

ランダ「なんか聞こえた気がする」

レシラム‘‘気のせいじゃないか?”

そう言いながらも、地面がもう間近に見える。

ズシン

レシラムの巨体が村の大地を踏みしめる。

レシラム‘‘着いたな。ここが神託の村か…”

ランダ「ただいま、神託の村」


レシラムに気づいてか、何人かの村人が近づいてきた。

アルム「おかえりなさい、ランダ君!」

ランダ「あっ、ただいまです、アルムさん!」

こちらは陽気なおばさんのアルムさん。

アルム「どーしたのよ、そんな美しい龍なんて連れて!いやぁ、大きくなったわねぇ…。
さ、早くお母さんに会いにいきな!

白龍さんは東の森で待っているといいよ!あそこは自然のエネルギーがたっぷりだし、ポケモンもたくさんいるわ。待ってるには丁度いいんじゃないかしら?」

レシラム‘‘だそうなので、余はしばらく東の森にいる。後はお前の時間
に合わせる。よいな?”

ランダは頷いた。

トビー「いやいや、腰が抜けるかと思ったわい!突然でっかい白いのがくるかと思ったら、あんさんだったのかい!おかえりじゃよ、ランダ!」

こちらはランダにいろいろな知恵を教えてくれる、トビーおじいちゃん。

ランダ「ただいまです、トビーおじいちゃん。元気そうで良かった」

トビー「ははは、わしゃいつだって元気じゃよ」

アルム「こら、トビーおじいちゃん!早くお母さんに会わせてあげなきゃ!」

トビー「おぉ…そうじゃった、そうじゃった!ランダ、後で冒険の話、わしに聞かせてくれよ〜」

ランダ「もちろんです!」

自宅へ向かう途中には、たくさんの人から おかえり を言われた。
村の人達はみんな優しい。
若い人がいないわけではないので、子供もいくらかはこの村にいる。
それでも、みんなランダを大切に見守ってくれていた。
これこそが、この村が全体として暖かい、何よりの証拠だろう。

「ただいま」

村の人達にこう返す度に、ランダには一つの 真実 が見えてきた。

ランダ(俺は、この優しさを…暖かさを 守らなきゃいけない気がする。
誰かじゃない、俺がやるべきなんだ、きっと。 )

懐かしく感じる我が家が見えてきた。いよいよ 父の真実を知る時だ。

ランダ「出てこい、みんな!」

それぞれのボールからポケモン達がでてくる。村のふんわりとした空気にいつもより和やかだ。

ミッド‘‘懐かしいな、ランダ。
しばらくみんなを案内していていいか?”

ランダ「あぁ。むしろ頼みたいぐらいだ。」

シューラ‘‘空気がすごく美味しい…”

カリブ‘‘自然と優しい気持ちになっちまうぜ…”

サイバー‘‘ミッド アンナイ タノンダ”

ミッド‘‘任せな。
ランダ、いろいろお母さんに話してやれよ?きっと心配していただろうから”

ランダ「うん。ミッドもゆっくりしてよね?」

ミッド‘‘もうゆっくりしている”

そう言うと、みんなを引き連れて、のんびり歩いていった。
ランダは空を見上げた。
いつも以上に澄んだ空だ。
いや、懐かしい空といった方が正しい。旅に出てからはこんなに綺麗な空を眺めることが少なかったせいからか、珍しく感じてしまう。
あまりに素朴な感情に、思わずランダの口元が緩んでしまう。最近は思いつめたこともたくさんあった。だが、本来の目的を忘れてしまいそうなほど平和な時間がここには流れている。

ランダ「ただいま!」

今まで一番大きな声でそう言い、ランダは家のドアを開けた。
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