ポケットモンスターAW

□第八章
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第7章「熾烈な絆」

プラズマフリゲートでの戦いから、一週間が過ぎた。ラピスラズリの動きは相変わらずで、その思想に賛成する者が増えつつあった。それに対し、各地のチャンピオンや強いトレーナー達が、ラピスラズリに乗っ取られた街を取り戻すために、動き始めていた。
イッシュ地方でも、反撃の狼煙をあげるべく、キョウヘイやN達が集められた情報をもとに調査をしていた。

ランダ「んっ… ここは…」

気を失い、閉じていたランダの目に光が差し込む。同時に、自らが頭痛を患っていることに気づき、思わず顔をしかめた。

トウヤ「よう、起きたか」

トウヤの声が、ランダの耳に届く。
何故かは分からないが、ランダはふと、安心した。

ランダ「トウヤさん…あの、ここは…」

トウヤ「カラクサタウンの民家だぜ。優しい爺さんが一角を貸してくれたんだ。」

生い茂るツルは繁栄の証。
カラクサタウンはカノコタウンのすぐ北にある、目立ったものはないものの 自然豊かな居心地のよい街だ。まだ、ラピスラズリの手は忍び寄ってないらしい。青いスーツの姿は見えない。

ランダ「…ルミナは?」

トウヤ「ラピスラズリに連れていかれた。確証はないが、ひどい目にあうことはないと思うぜ。シアンは紳士なやつだから。」

ランダ「…そうですか。……くそっ…俺のせいで…!」

トウヤ「…あまり自分を責めるな、ランダ。それから…しばらくは休めよ。まだ、頭痛がするんだろ?」

その問いに強がろうとしたランダだったが、身体が許してくれなかった。言葉を発する前に頭が頷く。

トウヤ「後でアクロマが詳しく話すって言ってたぜ。それまではまた寝てるといい。」

寝ている方が得策だと思ったランダは、素直にトウヤに従うことにした。実際、頭が痛くてどうしようもなかったのだ。

寝る とは言ったものの、気を失ってからずっと寝ていたため、眠気は微塵もない。なかなか寝付くことができず、目を閉じたまま いろいろと考えることにした。
まず、第一に自らが何をしたか である。禁断のAILEを発動させたところまでは記憶があるものの、それ以降は何一つ覚えていない。故に、自分自身がルミナに危害を加えたかどうかも分からない。
第二に、ルミナの行末である。トウヤの言う通り、シアンがルミナにひどい仕打ちをするとは、ランダにも考えずらかった。だが、ルミナの力が無ければ ラピスラズリの目標が達成できないのも事実。力づくで屈服させる可能性は大いにある。彼女の身を案ずれば案ずるほど、ランダには自分を責めるしか術がなかった。
そして、最後に 自分のポケモンのことだ。何日寝込んでいたかはランダにはわからなかったが、ともかく、ポケモンが回復するには十分すぎる時間があったはずだ。にも関わらず、今ここにはいない。そこに疑問を抱かざるを得なかった。自分のことを心配して 横にいてくれるくらいには自分のポケモンと絆があると ランダは自信を持っていた。

そこに、アクロマが顔を出した。

アクロマ「ご気分はどうです?」

ランダ「あっ、アクロマさん。悪くはないです」

アクロマ「頭は…痛むようだね。
普段は使わない脳を極大まで使ったから、そうとう疲れているはずだ。無理もないよ」

ランダ「普段は使わない…?」

アクロマ「よくは僕も分からないが、君たちには守護天使がついているようだ。ルミナがそのようなことを言っていた。めんどうだから、これもAILEと呼ばさせてもらおう。
君についているAILEは…ルシ って名前らしい。そいつは君の普段は使っていない脳の部分を刺激、活性化させることで ポケモンを完全に操っていたようだった。」

ランダ「ポケモンを…操る?まさか、相手のポケモンまで…?」

アクロマ「そう。間違いなく、無敵の力だろうね、これは。自我を失うのが 唯一の欠点 といったところかな。それから…絆をも破壊するという点も忘れてはいけない。」

ランダ「絆を…。じゃあ、もしかして、ミッドは……」

アクロマ「君達の絆の強さは、確かなものがある。それさえも断ち切った。まさに禁忌だね。ミッドくんが今 何を思っているかは僕に知る由はない。しかし、君に不信感を抱いているのは間違いないと思う。あれだけ ひどい深手を負ったからね。」

ランダ「ミッドが深い傷を…!大丈夫なんですか!?」

アクロマ「大事には至ってない。けど、完治にはそれなりの日数がかかる。今日 退院 ってとこかな。他のポケモン達も一緒にいるから安心するといい。ここのポケモンセンターのジョーイさんが 世界的にも技術を持っている人だったからね。そうでなければ危なかったかもしれないよ。彼は脳だけでなく、筋肉も限界を超えた活動をさせていたから。」

ランダ「不幸中の幸い…ってわけですか。」

アクロマ「まぁ、そうだね。動けるようなら、ポケモンセンターに行くといいよ。それじゃ、僕はこれで。フリゲートの修理があるからね」

白衣をはためかせながら、アクロマがランダのもとを離れていった。
それを見ながら、ランダは頭痛が少し収まったのを確認した。
ランダは起き上がり、ポケモンセンターに行くことにした。その様子に気づいたお爺さんが話しかけてきた

おじいさん「おぉ、起きたか。身体は大丈夫かぞい?」

ランダ「おかげさまで。」

おじいさん「無理をしてはいけないぞい。今日一日までは泊まっていきなさい。」

ランダ「では、お言葉に甘えて…。
少し、ポケモンセンターに行ってきますね。」

おじいさん「ほう、そうか。気をつけるんじゃぞい。」

優しすぎるお爺さんからの心配の言葉を尻目に、ランダは自分のポケモン達が待っているポケモンセンターへと向かった。ミッドへの心配からか、無意識のうちに早足になる。

ランダ「ジョーイさん!」

ジョーイ「どうかされましたか?」

ランダ「ポケモンを預かってもらっていたランダです。あの、俺のポケモンは…」

ランダ「みんな元気になりました!
さぁ、こちらへどうぞ」

ジョーイに連れられ、ミッド達と一週間ぶりに顔を合わせることができた。だが、その顔色はみんなどことなく悪い気がする。

ランダ「みんな、元気だったか?」

サイバー‘‘ランダ ゲンキソウ。ヨカッタ。デモ…”

ランダ「…。 シリウスは?」

スカイ‘‘ポケモンセンター外で治療してもらったみたいだよ。モンスターボールはカリブがもってる”

カリブ‘‘少なからず無事だから安心しな”

ランダ「そうか。」

ジョーイ(ひとりごと…?)

シューラ‘‘ミッドは僕達と違って大変でしたよ。ジョーイさんの腕が良くて助かって、ほんとによかった…”

ランダ「ほんとに…ごめんな、ミッド。」

ミッド‘‘…。”

カリブ‘‘ミッドもこういってるんだ、気にすんなって”

ランダ「え?ミッドは何も言ってないよ」

ジョーイ(なるほど、ポケモンと話せるのね、この子。)

サイバー‘‘イヤ、イッタ。”

シューラ‘‘確かに、別にいい って言いましたよ”

ランダ「んなばかな…?
ま、まさか… ミッドの声が…聞こえない!?」

ミッド‘‘…。”

カリブ‘‘はぁぁあ!?んなことあんのかよ!?”

スカイ‘‘僕達とは話せるのに。”

シューラ‘‘ミッドとだけ っていうのは…不自然ですね”

サイバー‘‘ミッド ガ イヤガッテルノデハ?”

ランダ「…そうなのか、ミッド?」

ミッド‘‘…。”

スカイ‘‘ミッドは… 分からない って。”

ランダ「そ、そんな……。ミッド、お前……。」

ジョーイ「どうかされたんですか?」

ランダ「………いえ、なんでもないです。ポケモン達の治療、ありがとうございました。」

ランダはそういい、みんなをボールに戻した。

ジョーイ「大丈夫かしら…?」

不自然な態度に不安を抱いたジョーイさんは、どうしたらいいか思索したもののいい案は浮かばず 、仕方なく仕事に戻ることにした。

ランダ(ミッドは…きっと 俺を嫌いになったんだ。信頼がないと、俺はポケモンとは話せない。いったい、どうすればいいんだ…)

ルミナにミッド。ランダは 何だか自分の全てを失った気がした。話せなくなってしまった以上、ミッドとの関係は パートナーとは言えない。少し前までなら話せないのは当然だった。でも、そこに絆は確かにあった。しかし、今はそれは消えかかってしまっている。ふと、病気で死んだロセウスが記憶をかすめた。間髪いれずに、父の姿が頭をよぎる。
いったい自分とは何なのだろうか と質問されれば、今ならランダはこう答えるだろう。「疫病神だ」 と。

歩きながら、ランダは途方に暮れてしまった。これから先、何をすればいいかが全く分からなかった。自分にはラピスラズリと戦う力など到底ないし、今はポケモンバトルを二度とやりたくなかった。これ以上、自分のポケモンとの絆が断ち切れるのは見たくなかった。そういった想いをランダは自分で感じた。


おじいさん「おかえり」

ランダ「…ただいまです。」

おじいさん「風呂を沸かしておいたから入っておいで。久しぶりだから 気持ちいいだろうぞい。」

ランダ「ありがとうございます。」

おじいさんに流されるまま、ランダはお風呂場を使わさせていただくことにした。お世辞にも広いとはいえないが、十二分に体を休めることはできる。髪に体と丁寧に洗い上げ、お湯に浸かると疲れがドッと溢れてきた。ようやく休めた というのに 休んでいる心地がしない。

ランダ「生き地獄…だな」

思わず、ランダはそう呟いた。そこに
‘‘入るぜ” と声がした。

ランダ「うわっ びっくりした。カリブ なにやってんだよ」

カリブ‘‘何って… 風呂だろ”

至極当たり前だと言わんばかりに、カリブは自分の体を洗い出した。

ランダ「あのなぁ…。ポケモンが風呂入るまでは許せても、ご主人が休んでいるときに入るのはなぁ」

カリブ‘‘細けぇことはいいんだよ。
あ〜 気持ちいいな”

ランダ「いや、よくねぇよ」

カリブ‘‘そうか?”

目を瞑り、気持ち良さそうにシャワーを浴びながら、カリブは会話を続ける。

カリブ‘‘…ミッドとはどうすんだよ?”

ランダ「どうするも何も…。
俺はトレーナー失格だ。」

カリブ‘‘ふぅん…”

肩まで浸かりながら、ランダは言葉を選んでいく。

ランダ「俺は… トレーナーとして一番最悪のことをした。相棒の…身も心を傷つけてしまった。…それをしてしまった以上 ポケモントレーナーとして生きる資格はない。
…お前としゃべるのも、これで最後にするつもりだ。」

カリブ‘‘大きく出たなぁ。だが…”

ランダ「だが?」

カリブ‘‘だが、それを実現できると思うか?考えてもみろ。お前は一度失敗してるんだぞ、それを”

ランダ「…あの時か」

ランダは、友を失った悲しみと自らがその友との約束を…さらには ルミナとの約束も守れなかったという一種の罪悪感から 自分の手持ちポケモンを話したことがある。それでも、着いてきたミッド、スカイ、サイバーのことは以前書いた。覚えているだろうか?

カリブ‘‘今一度してみたところで 結果は変わらねぇぜ”

ランダ「なぜ?今の俺に着いてくるほど、お前達の目は節穴じゃないはずだ。」

カリブ‘‘少なからず、俺は節穴だな。
…自分の借りを返すまではアンタから離れる気はないぜ。無理矢理でも置いてくってなら 武力行使だ”

ランダ「お前は十分 借りを返してくれているさ。それこそ、過ぎた分を俺が返さなきゃな」

カリブ‘‘なら、なおさら無理だな。ランダ、借りを返す方法はただ一つ。
オレ達と 夢 を叶えることだ。”

ランダ「…カリブ、お前……。」

カリブが キュッとひねり シャワーを止める。今まで流れていた水が落ちる音が消え、静寂が風呂場を支配する。

カリブ‘‘俺だけじゃねえ。みんなそうだ。今回の件で間違いなく、ミッドには借りを作っちまっただろうなぁ。それを… アンタはいつ返すつもりだ?”

ランダ「……。」

言い返す言葉が見当たらないランダに向かい、カリブはさらに付け加える。

カリブ‘‘それに… ルミナちゃんを取り返さない なんて道はランダにはないだろ?漢なんだから。”

ランダ「………。 ありがとう。どうやら、トレーナーをやめるのは 夢を掴むより難しそうだな。」

カリブ‘‘気づくのが遅ぇんだよ”

ランダ「そのようだな。今にも逆上せそうだ。」

二人…いや、一人と一匹は笑いながら、ほかほかした体を風呂場から出すのであった。
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