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□bifrostT
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今日の技巧の内容は、立体機動装置の分解・整備・組立だ。
各々自由に席についていく中、きょろきょろと目的の人物を探して首を回す。

「マルコ、隣座ってもいい?」

比較的前の方の列にマルコとジャンが座っているのを見付けて声を掛けた。
いつもの優しい笑顔で、もちろん、と席を詰めてくれたマルコに、ありがと、と簡単に礼を告げて席に着く。

立体機動といえばジャンだ。
ジャンの立体機動術は群を抜いていることを知っている。
これには前世の記憶のおかげで気付いたのだが、それなりに訓練兵の中でも有名な話である。
もちろんマルコの成績も飛び抜けて優秀なため、この二人にくっついておけば何かと都合がいいと踏んで隣に座らせてもらったわけである。
それにマルコは人当たりが良くて、一緒にいて気が楽なのだ。
成績優秀で人柄も良い彼は友人として申し分ない存在だろう。

よく一緒に雑談を交わすミーナと一緒に受けてもよかったのだが、ここで身につけた技術が将来的に自分の命綱になることを知っている私は、何としてもしっかりと訓練内容を身につけておきたかった。
なりふり構っていられる場合ではないのだ。



各自で立体機動装置を組み立てるように教官から指示を受けると、ざわざわと雑談が聞こえるようになった。
ジャンとマルコがたまに会話しているのを小耳に挟みながら、黙々と作業に取り組む。
思惑通り、ジャンが立体機動術について自慢げにあれこれと話していた。

えーと、次はどうするんだっけ…

作業の手が止まり、装置とにらめっこが始まった私の様子を見てマルコが、次はワイヤーの確認だね、と助言をしてくれる。
あ、そっか、ありがとう、とお礼を言ってせせこましく作業を再会する私の様子を眺めてジャンが話し掛けてくる。

「そういやナマエ、お前内地出身だろ?なんでわざわざこんなとこ来たんだ?」

まさかお前もあの死に急ぎ野郎と同じこと考えてるなんて言わねえよな!?なんて声を荒立てるジャンに、えっ、いや、そういうわけじゃないけど…、と曖昧に否定する。

「訓練兵に志願する理由なんて、特権階級狙いぐらいしかねえだろ」

「誰しもジャンと同じ考えってわけじゃないってことだよ」

マルコのほんの少し誇らしそうな表情に、入団初日のことを思い出す。

「マルコは王に心臓を捧げるため、だったよね」

誇らしそうに肯定するマルコに、ジャンが水を差す。

「んだよ、お利口ぶってんなよマルコ。つか、こいつが王に身を捧げるために兵士になるようなやつに見えんのかよ」

言われてみれば、というようにマルコの視線も加わる。
ジャンに加えてマルコの視線まで一心に受けるはめになってしまって、居た堪れない。

「内地に住んでいても、いつ巨人に壁が壊されるか分からないから。生き残るためには、ここで勉強する必要があると思って」

というのはほとんど建前のようなもので、訓練兵に志願した大きな理由は、私が巨鳥化能力を持っていてベルトルトたち知性巨人に近付いて色々と知る必要があるからだ。

ジャンが軽く鼻で笑う。

「巨人が攻めてきたのは一回きりじゃねえか。あれから何年経ってると思ってんだよ」

「確かに、もう巨人に壁を壊されるなんて考えてる人はほとんどいないよね」

二人の言う通り、あれから随分と危機感も薄れ、現在の世論では巨人に対する恐怖感よりは食糧不足による不満の方が強い。
ここに所属していると世論を耳にする機会は限られてくるが、おおよそそんな感じだ。

「もう巨人なんて攻めて来ねぇんじゃねえか?」

楽観的なジャンの言葉に、きゅ、と唇を引き結んだ。

「…うん、そうだね。そうなるといいね」


 
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