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□bifrostT
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いつもより幾分騒がしい朝。
みんな今日の予定を楽しそうに話しながら朝食を楽しんでいる。
今日は訓練兵団の休日。
私もみんなの楽しそうな空気に当てられて、胸が高鳴る。
部屋にこもって読書しているのはもったいないな。
かといって買い物に行く予定もないし、馬屋にでも行ってみようか。
なんて考えながら朝食を食べ終えて寮へ戻る。
いつもは訓練のために動きやすい服装をしなければいけないのだけど、今日は休日だから私服だ。
久しぶりにスカートを履いて、なんだか女の子だなって思って嬉しくなる。
せっかくだからと、鏡に向かってヘアアレンジをしてみた。

「わー!可愛い!」

そういって話し掛けて来たのはミーナだ。

「ナマエって器用なのね!」

「ありがとう」

ミーナの裏表のなさそうな褒め言葉に嬉しくなる。
彼女の楽しそうな顔に釣られて口元が緩む。

「せっかくだから、ミーナもしてみる?」

なんて提案してみれば、えっ、いいの?、と言いながら期待するような眼差しを向けてくる。
うん、もちろん、と返事をすれば、じゃあお願いしようかな、なんて言いながら私が勧めた鏡の前へおずおずと座る。
ミーナはいつも真ん中分けでおさげにしてるから、今日は前髪の分け目を変えて編み込みにして。

「どうかな?」

「わー!すごい、ナマエ!可愛い!」

そう言って嬉しそうに鏡の前で髪型を確認するミーナに、嬉しくて、照れくさくて、えへへ、と思わず笑みが溢れた。

「ねえ、アニ。アニもどう?」

近くで読書していたアニにミーナが声を掛ける。

「…あたしはいいよ」

「そう」

ミーナが少し残念そうに肩を落とす。
アニの綺麗な金髪が朝日に煌めいた。

「アニの髪、綺麗なのにもったいない」

私がそう言うとアニは少し面食らったようだった。

「ね、せっかくだし、髪触らせて?」

私の説得に、しばらく逡巡したアニは渋々といった様子で承諾してくれた。
いや、言動はそうだったが、ほんの僅かにアニが興味を示していたのを私は確信していた。
女の子特有の瞳の輝きを一瞬だが放っていた。



「ねえ、せっかく髪も弄ったことだし、どこか出掛けない?」

私の提案にアニがつれない様子で、どこへ?なんて訊いてくる。
そうだなあ、どこがいいだろう。
ふと先日のことを思い出す。
せっかくだからベルトルトに見せてあげたいな。
そう思っても彼がどこにいるかなんて知らないし、とりあえず外に出てみるしかない。

「外!アニの髪は太陽の下が一番映えるから!」

アニの手を取って歩き始めると、意外にも手を払いのけられることもなく大人しくついてきてくれる。
女子寮から出て、外の空気を胸いっぱいに吸い込んで、さて、どこへ行こうかな、なんて考えながら、とりあえずはこの開放的な気分を味わった。



「ライナー!ベルトルト!」

体の大きな二人を見付けて思わず駆け寄る。

「どうしたんだ、その髪」

ライナーが呆気にとられたような顔で問いかけてくる。
アニを目に留めたベルトルトの表情が色めき立ったことを私は見逃さない。

「別に」

素っ気ない返事をするアニに、慌ててフォローを入れる。

「せっかくの休みだし、オシャレしてみたの」

どうかな?とベルトルトに問いかけてみせると、アニに魅入っていたらしいベルトルトがハッと我に返った。

「あ…その、二人とも、とてもよく似合ってるよ」

顔を赤くしながらなんとかアニへ褒め言葉を告げる。
私がオマケだってことは弁えていても、胸を抉るものがあった。

つらい。
この場にいたくない。

「私は馬屋の方に行ってくるから!二人はお姫様のエスコートよろしく!」

思わず口先からこの場を逃げ出す口実がべらべらと垂れ流れてくる。
脱兎のごとく逃げ出すナマエの背後で、お姫様なんて柄かよ、と笑ったライナーがアニに投げ飛ばされた。



同じようにお洒落したって私は私。
アニみたいに美人にはなれないんだ。

そんなことを考えながら鬱々と歩いていると、マルコとジャンとすれ違う。
マルコと目が合った。

「やあ、ナマエ。今日はどこかに出掛けるのかな」

「いや、そういうわけじゃないけど」

「おしゃれしてるから、買い物にでも行くのかと思った」

「いや、その、あー…お休みだから、ちょっと嬉しくなっちゃって、」


居た堪れなかった。
浮き足立っていたことを指摘されて。
こんなことしたって可愛くなんてなれないのに。
なんだか私、馬鹿みたい。


「ナマエって器用なんだね」

「その器用さが技巧に生かせりゃいいのにな」

鼻で笑うようにジャンが嘲笑する。
明け透けな物言いに、ムッとして言い返す。

「それはそれ、これはこれ」

私がムッとしたのが面白かったのか、マルコが笑う。
ひどい。

「それでドレスでも着て歌ったらちょっとしたステージでもできそうだね」

「あー、そりゃいいな。ここは娯楽が少なすぎる」

「へっ!?いやいやいや、無理無理無理!」

突然何を言い出すんだ。
びっくりして、恥ずかしくて顔を真っ赤にしながら全力で首を横に振った。
そんな、公衆の面前でそんなこと!
羞恥プレイもいいとこだ。

「なんだよ、お前、いっつも夜歌ってんじゃねえか。今更だろ」

ジャンまで聴いてたのかー!
びっくりして恥ずかしくて声が裏返る。
確かにそういえば以前マルコが、有名になってるって言ってたけど。
まさか本当に周知の事実だったなんて。
いざ目の前に突きつけられてみると動揺する。

「いや、それは、違うの!私、そんなつもりじゃ…!」

首がもげるんじゃないかというくらい根限り首を振っていると、二人してくつくつと笑い始めた。
二人してからかうなんて、ひどい。
うう、と唸りながら私が批難するようにジト目で見ていると、マルコが、髪が崩れちゃうよ、なんて言うから慌てて頭に手をやると時すでに遅し。
ぐちゃぐちゃになってしまった髪型に、うわああ嘘ー!?なんて嘆くとまた二人の笑い声が大きくなった。
泣く泣く髪を解いていると、唐突にぼすっと頭にジャンの手が乗っけられた。
そのままぐしゃぐしゃと掻き乱すように頭を撫でる。
嫌がらせか。

「いいんじゃねーの、こっちの方が、触れるしな」

頭に乗る手の重さが心地よくて、言葉から滲み出る暖かさが心地よくて。
小声で呟くように、なにそれ、としか言い返せないでされるがままにしていると、マルコが慌てて、ジャン!女の子の髪をそんな風にしちゃダメだよ!なんてお説教する。

頑張ってお洒落した髪はぐちゃぐちゃになってしまったけれど、なんだか毒気を抜かれたようで、緩む口元が二人に見えないように俯いた。


 
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