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□bifrostT
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「ジャン、ちょっといいかな」

そう言って呼び止められたジャンは、不思議そうな視線をマルコへと向けた。



夕飯のあと、就寝時間までまだ時間がある。
夕飯中に盛り上がったアルミンとの会話の続きを楽しもうと、ナマエは軽い足取りで男子宿舎へと向かっていた。
宿舎間を歩くくらいなら灯りがなくても移動できる。
どちらも明かりが灯っているのだから、その明かりを目印に歩いていけば迷うこともない。
ふと、男子宿舎から出てきた人影が目に付いた。
ジャンとマルコだ。
人の目を気にするように二人が男子宿舎の裏手へと消えていったのを見て、なんだろう、と好奇心を唆られる。
娯楽が少ないこんな閉鎖空間の中だからか、毎日同じようなことの繰り返しの退屈な日々が続くせいか、好奇心に抗えない。
アルミンのことはひとまず置いておいて、抜き足差し足忍び足で二人のあとを追いかけた。



二人は人気のないところ、男子宿舎の裏にいた。
勿体振るようなマルコに、ジャンが痺れを切らした。

「で、なんだよ」

「…うん、えっと、ナマエのことなんだけど、」

その言葉でなんとなく察しがついた。

「告白すんのか?」

「いや、それはまだ考えてない、かな」

マルコの言葉に、そっか…、とジャンが相槌を打ち、真っ直ぐにマルコを見据えた。

「俺も、そう簡単には譲らねえからな」

「ああ、分かってる」

そう言って混じりあった視線は、気持ちのいいくらい真っ直ぐなものだった。





え・・・?

心臓は早鐘を打ち、じわりと嫌な脂汗が滲む。
二人の言葉がぐるぐると頭の中で渦巻く。
脳内を支配され、吐き気をもよおした。

なんで…私は…え、だって、おかしい
私のことなんて好きになってくれる人なんていないはずだって、ずっと、
だって、ありえない
嘘、どうして、なんで、

マルコが私なんかのこと好きになってくれるはずない
ジャンはミカサが好きなはずだ

なんで、一体、どういうこと、ありえない

私は、少なくともマルコかジャンのどちらかを振らなければいけないの?
どうして?
だって、二人とも私なんかには、とてもじゃないけど釣り合わないし、勿体無いし、私なんかよりずっと良い子がいるはずなのに、なんで、

どうして私なの

自分の好意を否定される苦しみを、私が、他の誰でもない私が、マルコかジャンに与えなくてはいけないの?


気持ちはもう決まっていた。
ジャンのことは最近異性として気になっていた。
マルコのことは異性として意識したことがない。


でも、マルコは大切な友達だ。
いつも優しい笑顔で、肯定的で、的確なアドバイスをくれる。
仲間からの信頼も厚い、将来は指揮官たりえる才能を持った人物だ。

マルコのこと、こんなに大切なのに、大好きなのに。
どうして、
どうして裏切らなければいけないんだ。
傷付けなければいけないんだ。

嫌だ。
いやだいやだいやだ。


ぽろり、と大粒の涙が溢れた。
ダムが決壊したかのように、ぼろぼろと涙が溢れていく。


ふいに、異性として見られているということに、事実に、はた、と思考が行き着く。
急に腹の底を掬われてしまったかのような、得体の知れない不安感が体を襲う。

私のことを見ている、狙っている

今まで彼に無防備に寄せていた信頼が、揺らぐ。

そんな自分にまた嫌悪感が募る。



最低だ、私


 
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