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□bifrostT
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もそもそと兵站行進の準備をしていると、ジャンが、ああ、そうだ、と面白い話があるんだ、とでもいうように話し掛けてくる。

「今日の天気は、どうだと思う?」

「えぇ…?どうだろう、今のとこ晴れてるけど」

「ベルトルトの寝相だと雨だな」

ジャンが得意気に言ってみせた。

ピン、と頭の中で何かが引っ掛かる。
ジャンが続けた、アイツの寝相は芸術的に悪くてよ、という言葉で、ああ、と思い出す。
気の毒に思って、ベルトルトの方を見遣った。

極度に悪い寝相の原因は、自律神経系に異常をきたしていて強い不安等のストレスを感じているせいだったりするらしい。
ウォール・マリアを破壊した彼は、自責の念に追い込まれているんだろう。
そして、任務を遂行するために、これからもまた追い込まれ続けるのだ。

巨人を引き連れ、壁を破壊するのって一体どんな気分なんだろう。
これから破壊する壁の中で、人類に混じって生活するのはどんな気分なんだろう。

反吐が出る。
最悪な気分だ。
私ならきっと耐えられない。
ひと思いに全ての壁を破壊してしまわなければ、飲み込まれてしまう。
人間の生活感に。
人々の生きている空気に。
楽な方へ、楽な方へとずるずると思考が落ち込んでしまう、堕落した空間に。
浅ましい人間の中に、取り込まれてしまう。

一体彼は今、何を思っているんだろう。
全人類から敵視され恨まれる羽目になった彼は、
一体何を感じているんだろう。
色んな感情を押し殺しているから、無口で目立たないのかな。
その爆発しそうな感情が、無意識のうちに寝相に表れているのかな。



彼らに救いはないんだろうか。
せめて、
せめてのもの救いとして、アニと結ばれて欲しい。
報われて欲しい。
なんていうのは私のエゴだろうか。


ぱちり、とベルトルトと視線がかち合う。
いまいち感情の窺えない彼の顔は、戦士の顔、をしているんだろうか。
私は口角を上げて斜めに首を傾げてみせた。
さらり、と髪が揺れて肩に触れた。

「おい、聞いてんのか?」

「え、あ、うん、何?」

ったく、と呆れたようにジャンが溜息を吐いた。

ジャンは、先程までナマエが向けていた視線の先を見遣る。
ベルトルトは既にライナーの方へと向き直り、兵站訓練の確認をしているようだった。


 
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