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□bifrostT
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気持ちよく晴れ渡る空の下、トロスト区の壁の補強作業として壁上固定砲の整備をしていく。
無事、訓練兵団を卒業できた私たちは、この安穏とした空気を骨身に染み渡るくらい満喫していた。

「あーめんどくさ。サシャと同じ班だったら仕事押し付けられたのによ」

「もう、ユミル。真面目にしないと、上官に怒られちゃうよ?」

仲の良い二人に、思わず笑みが溢れる。
何笑ってんだ、とでもいわんばかりにユミルの視線がナマエを射抜いた。

「なんだナマエ、羨ましいのか?まあ、お前の愛しのジャンは別の班だもんな。残念だったな」

私が慌てて、いやいやいや、そういうわけじゃないって!、と否定するも、ユミルはニヤニヤと意地の悪そうな顔でこちらを見てくる。
クリスタが、もう、からかわないの!、と仲裁に入った。



ここが、人類と巨人の最前線。
トロスト区の50mの壁から壁外を眺める。
高所にあるせいか、何物にも遮られることのない風に、足元を掬われてしまいそうだ。

もし壁から落ちたとしても、身に着けている立体機動装置を使えばいい。
そう分かっているのに、身が竦むのは、私が臆病だからだろうか。





ドオオォン、と地鳴りのような激しい衝撃と音が辺り一帯に響き渡った。
あまりの衝撃に、思わず身体を強ばらせてしまう。
衝撃のした方へ勢いよく目を向け確認すると、超大型巨人の姿を視認する。

ズキン…と微かに頭痛がする。
一瞬でも目を逸らしたら命がないぞ、といわんばかりに大きく見開いた目に、視界に、ザッと過去の映像が被る。

―その日、人類は思い出した

ナレーションの声が、脳内で、響く。

―ヤツらに支配されていた恐怖を、

 鳥籠の中に囚われていた屈辱を…



「おい何してる!?超大型巨人出現時の作戦を忘れたのか!?」

ユミルの声で、ハッと我に返る。
急いで立体機動に移り、ユミルとクリスタに続いた。

釣鐘は激しく打ち鳴らされ、パニックに陥った住人が押し合いへし合い逃げていく。
その上空を飛びながら、背後から迫る恐怖感に抗えず、チラリ、と門を盗み見た。
先遣班が続々とたどり着く門の向こうから、影が覗いた。
人間ではない。
見知った動物たちでもない。
明らかに尺度を間違えているその巨体に。
ぞくり、と全身を恐怖が包み込んだ。

捕まる、

絶対的な距離があるのにも関わらずそう思ってしまう。
巨人と私の間を妨げるものは何もない。
今にも食い殺されかねないと、脳がガンガンと警鐘を鳴らす。


これが、本物の巨人
これが最南端の、街
これが、本当の恐怖

何も知らなかった
ウォール・シーナで、のうのうと暮らしていた私には、
壁という絶対的な信頼を誇る安寧の元で暮らしてきた私には、
何も理解できていなかった


私は知っていた
前世で読んで、
こうなることを知っていたはずなのに、
実際には、私は何も知らなかったんだ

逃げ惑う人々の顔も。
戦いを挑まなければいけない、命を投げ打たなくてはならない兵士の顔も。


 
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