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□bifrostT
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本部にたどり着くと、速やかに作戦行動に移るべく装備を整えていく。
ガスを補給しようとしてカチャカチャと手元が震えてしまう。
ああ、なんだろうこの既視感は。
わずかに走った頭痛に顔を歪めた。
本部広場に整列して上官の指揮を受ける。
「…本防衛作戦の目的はひとつ!住民の避難が完了するまでウォール・ローゼを死守することである!なお…承知しているであろうが、敵前逃亡は死罪に値する!みな心して命を捧げよ!」
解散の号令が掛かると同時に訓令兵たちが走り出す。
緊迫した空気に当てられて、余計にドクドクと心臓は小刻みに脈をとり、額に嫌な汗をかいた。
この壁の中に巨人がいる。
蹴り破られた門から覗いた巨人の姿がフラッシュバックした。
ぞわりと耐え難い恐怖に体が包まれる。
思わず息を飲んだ。
ジャンやベルトルト、クリスタやダズがいるところに通り掛かる。
クリスタが、へたりこんで嘔吐しているダズの介抱をしている。
知っている。
その光景に、またも嫌な確信が脳内全体を絶望に染め上げる。
心臓の音が脳にダイレクトに伝わってくる。
知っている。
そうだ、たしか、このあとは
ジャンが肩をいからせてツカツカと歩いていく。
通路でエレンとミカサが何かしら話していた。
ジャンがその横を何事もなく素通りしていく。
え・・・?
どうして・・?
ジャンが歩いていく様を、呆然と目を見開いて眺める。
得体の知れない恐怖感がおぞましくも足下から飲み込みに掛かる。
おかしい、違う、なんで
頭の中がかき混ぜられたみたいに雑然として、現実と記憶の境目が曖昧になる。
これは、夢…?
いや、違う、
これは、現実だ。
急いでジャンを追いかけて呼び止めた。
「ジャン、落ち着いて!」
「落ち着いて死にに行けっつうのかよ!?」
振り返ってナマエを目に留めたジャンは、しまった、というように眉根を寄せた。
思わず言い返してしまったんだろう。
それぐらい気が動転しているということだ。
私が、言わなければ。
私が修正しなければ。
ぎゅ、と唇を噛み締めて、必死に記憶を掘り返す。
記憶の中のエレンの言葉を。
「私たちは3年間厳しい訓練に耐え抜いてきたじゃない。何度も死にかけたし実際死んだ人もいるような訓練を、生き抜いたじゃないの。だからきっと、今日も生き残れる。生きて、内地に行くんでしょう」
ジャンが唇を噛み締めて眉間に皺を寄せる。
深考するようにゆっくりと目を閉じた。
目を開くと、おう、と小さく呟くように返事をする。
平常心を取り戻したらしいジャンの表情を見て、安堵する。
視界の端でエレンがミカサに頭突きをしていた。