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□bifrostT
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補給兵として本部に残ることになった私は、恐る恐る窓から外を覗いていた。

今、向こうでは命を掛けてみんなが巨人と戦っているはずだ。
はずなのに、どうしてだろう、想像できない。
理解できない。
今までずっと訓練兵として苦楽を共にしてきた彼らが、巨人に食われる姿なんて。
巨人と、戦うなんて。



「お待ちください隊長!もし巨人が攻めてくれば、我々補給兵だけでここを守るのは不可能です!」

「お願いします、どうかお残りください!」

声が聞こえてきた方、階下へと階段を駆け下りる。
補給兵としての任を受けている訓練兵が、本部を守る任に就いている上官の行く手を阻んでいる様子が目に止まった。
真ん中で声を荒らげている上官は、本作戦を指揮している隊長、キッツ・ヴェールマンだ。
やたらと見覚えが、一方的に馴染みがあるのは、過去の記憶のせいだろう。
トロスト区防衛戦で、巨人化したあと意識を取り戻したエレンを取り囲んで、尋問している様子が頭を過ぎった。
図体はでかいのに小鹿のように繊細な男だ。

「し、しかし、もしここが落ちれば、」

「えーい!黙れぇ!」

ヴェールマンが補給兵に刀を突きつけた。

「それ以上口を開けば、反逆罪とみなし、この場で罰せねばならんぞ!」






補給班の仲間が、ひいいぃ、と引きつけたような悲鳴を上げながら走って2階へと上る。

巨人が、入ってきた。
3〜4m級の巨人が、ズシン、ズシン、と足音を立てながら嬉々として近付いてくる。




このままでは、だめだ。
ジリ貧だ。
いずれ巨人たちが本部を取り囲み、ここに取り残された私たちは、
ガスの補給ができない兵士たちは、巨人に食べられるのを待つばかりだ。

今、逃げなければ、

でも、任務放棄はできない
敵前逃亡は、死罪だ。
巨人と戦わなければ、

やらなければいけないことは、分かっている。

外に、出なければ



意を決して、窓ガラスへと近付く。
外へ出るために、操作装置の柄で窓ガラスを割ろうとして、窓ガラス越しに、


巨人と、目が合った


物凄い勢いで、圧倒的物質量で、巨人の手が身体を吹き飛ばした。
胸部がミシミシという音を脳に直接訴えかけ、腹部が潰れるような鈍痛に呻く。
ガシャーンと窓ガラスが派手に割れる音が鳴り響き、破片が飛び散る。
ナマエの体が建物内にごろごろと転がされた。
反射的に顔を上げて巨人を確認する。
目の前の床を、巨人の手が獲物を掴もうとして、ガリガリと爪で引っかいていた。
私を食べるためにごそごそと手を伸ばして漁っている。

恐怖から、ひぃ、と息を呑んで格好悪くズリズリと身体を引きずるように匍匐前進をして巨人の手から逃れた。
ナマエ!、と呼ぶ声が聞こえてそちらに目を向けると、恐怖に顔を青くして涙を浮かべている補給班の女の子と目が合った。
内臓からこみ上げるように、げほっ、おえ、と真っ赤な体液を吐き出した。
内蔵が熱を持ち意識がぼんやりとし始める中で、悲鳴や泣き声を遠くに聞いていた。




巨人が窓ガラスの向こうから、餌を求めてこちらを覗いている。

「もう、だめだ、終わりだ」

補給班の女の子が呟いた。
どこかから巨人が入ろうとしているのか、衝撃が走り建物が揺れる。
巨人の声だろうか、唸り声が上がった。

補給兵の一人がカチャカチャと銃を整えている。

「そんなものが、なんの役に立つっていうの」

銃を口に咥えた彼は、脳天をそれで打ち抜き、自殺する。
脳髄が辺りに飛び散った。



地獄だ。
地獄は、ここにあったんだ。


 
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