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□bifrostT
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「…そんな、夢みてぇな話が、」
「夢じゃない。奇行種でも何でも構わない、ここであの巨人により長く暴れてもらう…それが、現実的に私達が生き残るための、最善策」
「とにかく、作戦を立てよう。とりあえず、補給室がどうなっているか聞かないと…」
アルミンの言葉にミカサが頷き、周りにいた訓練兵たちも補給班の兵士を確認するように探して視線を彷徨かせる。
部屋の一角で、ナマエ!?、と驚いた声が上がる。
ジャンは弾かれたようにそちらを向いた。
「おい、どうした!?」
人を押しのけるようにして駆けつけると、座り込んで介抱しているヤツと、血みどろになった黒髪の女子兵士が、ナマエが、目に入る。
なんで、こいつが…
彼女の肩を持って抱き起こす。
「おい…ナマエ、お前、なんで…」
鼻から口から大量に吐かれた血が付着して、くすみ始めていた。
顔からは血の気が失せ真っ青としている。
「嘘だろ…」
ライナーがナマエの頚動脈に手を当てた。
「落ち着け、ジャン。まだ生きてる」
死んでいるかのようにぴくりともしない彼女の様子に、信じられない面持ちで呆然としながら、ああ、とジャンが返事を溢した。
凄まじい発砲音に、意識が浮上した。
叫ぶような声が微かに聞こえる。
はっきりと聞き取れなかったそれを、過去の記憶が脳内で補正をかける。
サシャとコニーだ、急げ援護を。
映像が脳裏を過ぎって、ああ、そうだ、このシーンだ、と思い出した。
「全体仕留めたぞ、補給作業に移行してくれ」
ジャンの声だ。
ゆっくりと体を起こして、私も外に出なければ、とみんなと合流しにいこうとする。
辺りにべったりと付着した赤い血が目に入り、はっ、とする。
どうして私は起き上がれるのか。
腹部や胸部に多少の痛みは残っているが疼く程度でしかなく、血反吐を吐くようなこともない。
ふと、視界に靄がかかっていることに気付いた。
蒸気が、上がっている。
私の体から、蒸気が出ている。
うっすらと上がっていたそれは、体の痛みが感じられなくなると同時に収束した。
どきどきと、緊張から心臓が脈打つ。
これは、私が巨人だという証。
心臓に、ひやり、と冷気が差す。
やばい、
と焦って周辺を見回した。
よかった、誰もいない。
そうだ、考えてみれば全員が補給室で巨人を倒すための決死作戦を行ったところだ。
ほっと胸を撫で下ろす。
べっとりとこびり付いている血みどろの服を見て、しばらくは怪我人面しておいた方がいいんだろうな、と逡巡した。