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□bifrostT
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エレンの王都への召還が決まり調査兵団が招集され待機指令が下されて二日後のウォール・ローゼ南区。

塔がひとつと、主に宿泊を目的とした二階建ての建物がひとつ。エルミハ区から南西にある施設に私たちは待機させられていた。
付近には他に人の気配は感じられない。
辺りには樹木も生い茂っていて立体機動に適した立地だ。
104期生の中に巨人化できる人間がいると考えて選んだ環境であろうことが窺えた。
通常種と戦うのならそれなりの好環境だといえるんだろう。
ただ、ここにいるのは鎧の巨人と超大型巨人で、鎧の巨人の硬化能力に立体機動装置では歯が立たない。
いざとなったらライナー達はどうとでも逃げ果せることができてしまう。
おそらく彼らを拘束するつもりで真剣な表情で立体機動装置を装備している上官方が何とも滑稽に見えた。

だがそもそも本来的には巨人化できる人間が存在するということ自体がイレギュラーな問題なんだ。
トロスト区戦でエレンのことが明るみになったときに初めて認識されたことだし、とんでもない騒ぎに発展したばかりだ。
こんなこと想定できるはずがない。
巨人に人類が対応できるなんて認識自体が間違っている。
人類は巨人に対していつだって遅れをとってきた。
アニの共謀者が鎧の巨人と超大型巨人で104期生だなんて、想定できるはずもなかった。
アニの共謀者がまだ潜伏しているかもしれないと考えついたことだって充分飛躍した考えなんだろうと思う。

この立地環境だって、鎧の巨人を拘束するには役不足でも、人的被害を抑えるには充分活躍してくれることだろう。
それだけでも、エルヴィン隊長の有能ぶりが充分窺い知ることができる。

所詮は結果論。
私はおそらくこの先起こるであろう出来事を、この世界の未来を知っているから分かることだ。
過去の記憶がなければ私も今頃彼らと同じように困惑しながらも深く考えることはせずただ雑談に興じていたのだろう。
まあ、記憶があって先のことが分かっていたとしても、できることなんて今は兵士ごっこの続きしかないわけなのだが。



「おいナマエ、ジャンとは倦怠期ってやつか?」

「ちょっと、ユミル!」

ニヤニヤしながらユミルがいつもみたいにからかうように声を掛けてくる。
それをまたいつもみたいにクリスタが牽制している。
私はライナーとベルトルトが打っているチェス盤を眺めていたのをユミル達に視線を向けて、チラリとジャンの方を確認した。
テーブルの斜め向かいに座って苛立たしそうに貧乏揺すりをしていた彼にもさっきのユミルの言葉が聞こえていたんだろう、視線が俄かに交わった。
私はふい、と視線を逸らして再びユミル達の方へと顔を向ける。
さっきよりさらに笑みの深まったユミルの顔とかち合った。

「ユミルはお節介なの?」

「あ?」

ムッとして思わず挑戦的な物言いをしてしまった私に、ユミルはやはり機嫌を損ねたらしかった。
ナマエのくせに生意気だぞ、と言いながら何度もおでこを突かれた。
地味に痛い。
オラオラと指先でおでこを突くユミルに、痛い痛いやめてよーと言いつつも碌に抵抗しない私、可愛そうだよユミルやめてと必死に止めさせようとするクリスタ。
女子三人でワイワイやってるのが注目を集めてしまったらしく、周りで苦笑される気配がした。

はあーっと聞えよがしにジャンが溜息を吐く。

「それにしてもこの状況は何なんだ」

ライナー達が興味を惹かれたように険しい顔でジャンへと視線を向ける。
他にも何人かの視線を集めていた。

「壁外調査での巨大樹の森といい、蚊帳の外ってかんじだ。上の連中は一体何やってるっつうんだよ。ろくな説明も無しに命令だけされて、訳分かんねえっつの」

今にも舌打ちをしそうな、クソッと悪態を吐きそうな様子でジャンが愚痴った。
ライナーが同意して口を挟む。

「ああ。私服で待機、戦闘服も着るな、訓練もするな、なんて明らかにおかしい」

上官達の完全装備についても触れたあと、サシャとコニーに、クマだな、と適当に返答されてしまっていた。
クマの話から狩猟の話へと変わり、サシャやコニーが自分たちの故郷について話をしていた。

ああ、そろそろだ。

サシャが異変に気付いてペタリと耳をテーブルへ付ける。

何故だろう。
これから起こるであろう出来事にドクドクと鼓動は高鳴っているのに、不思議と頭の中は静けさを保っている。
確信しているはずなのに、未だに信じきれずにいるのかもしれない。

だって

ありえないじゃないか



「足音みたいな地鳴りが聞こえます!!」



こんな内地に巨人が出現するなんて




 
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