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□bifrostT
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巨人化を解いて上ってきたライナーとベルトルトは、ナマエが座り込んでいる枝より少し高い、近くにあったそれに飛び乗って、対峙する。
まだ完全には信用していないのだろう、緊張感が張りつめている様子がうかがえた。
ライナーが確認する。
「ナマエ、お前のことはとりあえず敵じゃないと考えていいんだな?」
「うん、多分…」
「…多分?」
「…うん、誰の敵とか味方とか、そういうのはちょっとよく分からないけど、ライナーたちについていきたいとは思ってる。私がこれから先どうしていけばいいか分からないし、この能力のことも、ライナーの故郷に行けば分かるんじゃないかって」
一瞬ライナーが黙って、そうか、と呟いた。
「お前はその能力のことを把握してないんだな」
私は、こくり、と肯いて、今までのことをライナーたちに話した。
気付いたら虹を歩いていて巨大樹の森に出たこと、人買いを通じて貴族の養子になったこと、注射を受けたこと。
その注射を受けたことで記憶障害になり、845年に記憶を取り戻し巨大樹の森で巨鳥化する練習をしたこと。
そこまで話したところで、ライナーの表情が陰った。
え、と戸惑ってベルトルトの顔色も窺ってみたが彼も苦い顔をしている。
「…壁の中で何度も巨鳥化したのか?」
ライナーにそう意味深に訊ねられ、素直に、うん、と頷く。
「蒸気はどう誤魔化したんだ…?」
は、っと息を呑んだ。
あの頃は取り戻した記憶を確かめることに手一杯でそこまで気が回らなかった。
けれど確かにそうだ、あんな盛大な狼煙を上げておいて誰も気付かないはずがない。
特にウォール・マリアが壊されてすぐで神経質になっているはずの王政府が見逃すはずがない。
壁内人類も怯えて些細なことにも敏感に警戒していただろう。
誰かに狼煙を見られたらきっと通報されていたはずだ。
そして狼煙が空高く昇っていく様子はかなり遠くからでも確認することができただろう。
ゾッとした。
何故私はまだここで生きているんだ。
どうして、どういった理由で生かされているんだ。
どうして王政府は、巨鳥化できる人間を、私を、黙認し、放置しているのか。
空からの敵には杜撰だ?
今の私は無敵だ?
そんなものはまやかしだ。
思い上がりもいいところだ。
王政府は空からの敵にも対抗する手段を持っていて、それに絶対の自信を持っている。
だから私は黙認され、放置されたに違いない。
所詮、私も王政府の手のひらの上で転がされていたに過ぎない。
籠の中の鳥のうちの一羽でしかなかったんだ。