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□bifrostT
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私は自宅から一番近い巨大樹の森へと足を運んだ。
ここでなら、きっと、巨人化してもバレない。
そう踏んだからだ。
しかし、たしか巨人化というのは確固たる目的意識がなければできないはずだ。
自分が巨人か人間か確かめるため、なんて目的としては弱すぎる。
何より巨人であって欲しくないという意識が強くて巨人化できる見込みは低そうだ。
大きく深呼吸をする。
ゆっくりと空を見上げた。
樹木の隙間から見える空には一羽の烏が飛んでいた。
私もあんな風に空を飛べたなら。
また違う世界が見えたのかもしれない。
じんわりと脳髄に染み込んでいく。
身体の端々まで感覚が行き渡る。
ああ、私も、あんな風に、羽ばたきたい。


両翼に樹木が当たって痛い。
私は先程よりも幾分小さく感じる樹木の間を縫って、大空へと羽ばたいていた。
高く、高く、羽ばたいた。
ああ、私はこんなにも狭いところで暮らしていたのか。
体を撫ぜる風が気持ちいい。
遊覧飛行をしばらく楽しんでいると、ふと先程の烏が目に留まる。
一緒に並んで飛んで親睦を深めようと思って近付いてみて気付いた。
私は、大きすぎる。
私は、鳥じゃない。
私は人間だ。
そうだ、私はナマエだ。
どうして飛べるんだ。

視界に映り込んだ翼を見ると白い。
足には水掻きも付いているようだ。
そうしてこの長い首。
私は白鳥のような姿をしているのだろうか。

私は、巨人じゃなかったのか。
進撃の巨人の世界には巨鳥なんて確かいなかったような。
そもそもここは本当に進撃の巨人の世界なのか。



私はあれから何度も巨大樹の森へ赴いて自分の能力を検証することになった。
何度も変身していくうちにはっきりとしてきたことは、私が人類の敵だということ。
こんなところに巨人がいるとバレたら、きっと立体起動装置を着けた兵士に即座に殺されてしまうだろう。
自分が巨人であるという実感が湧けば湧くほど、私は人々に恐怖を抱き、怯えながら生活する羽目になった。

そして相変わらず分からないのが、あの注射の中身。
あれは一体なんだったのだろう。
エレンのものとはまた別物だったのだろうか。
私にはまだ、自分自身のことも、この世界のことも分からないことだらけだ。
進撃の巨人の世界の話を知っていても、この程度なんだ。
私は自分の無力さを嘆いた。



怪しまれていないだろうか。
バレていないだろうか。
裏切られないだろうか。
自分以外の誰ひとりとして信用することができない。
きっと奴らは私が異形の者だと分かった瞬間に憲兵に私を売るのだ。
そして早く処分してくれと懇願するだろう。
怖い、怖い、怖い…。
一体私が何をしたというんだ。
私は今日もこうやって良い子を演じているじゃないか。

悪くない。
私は、何も悪くない。

なんて、なんて理不尽なんだ。
なんて理不尽な世界なんだ。


どうして世界はこんなにも、

残酷なんだ。


 
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