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□bifrostT
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「この世界を地獄に変えたのはお前らなんだぞ!!わかってんのか人殺しが!!」

エレンが捲し立てるようにして罵声を浴びせる。
私まで萎縮してしまいそうになるほどの剣幕だ。
彼のその何か焦っているような様子に私は違和感を覚えた。
エレンはどうしてこんなに怒っているのだろう。
間接的とはいえ母親の仇だから、という理由だけでは足りない気がする。
自分が不甲斐無いからだろうか。
母親が目の前で殺されるのを何もできずに逃げることしかできなかったからだろうか。
そして今現在も自分の力では勝つことができず仲間が助けに来るのを待っているからだろうか。
そしてその自分の力不足が辛くて、ぐつぐつと蟠り煮え滾る感情を発散させる相手を適当に見繕っているだけなのだろうか。

かわいそうに。

エレンは今までこの世界で生まれ育ってきてしまった。
この世界の在り方に疑問を持つことすらできないだろう。

もしかしたら、
もしかしたら私しかいないのかもしれない。
この世界がいかに理不尽な存在であるか知っているのは。
私だけなのかもしれない。
だってそうだ。
ライナーもベルトルトもユミルもこの世界の住人だ。
外部から来た人間は私だけだ。
私だけがこことは違う世界を知っている。
巨人のいない世界を。
ただただ安寧の続く平和な世界を。
当たり前に生きることの許された世界を。
当たり前の青春を。
私だけが知っている。
学校の授業は退屈で、
放課後に遊ぶ友達のことを考えて楽しく思うあの感覚も、
学校帰りの買い食いの美味しさも、
私だけが知っている。
エレンだってきっとこんな理不尽な世界ではなく、私の元いた世界のような平和な世界で暮らしていれば、ベルトルトたちに罵声を浴びせるようなこともないだろう。

そうだ。
もし何か、本当に悪い奴がいるのだとしたら、
この世界の在り方そのものが悪なんじゃないだろうか。
この世界は理不尽で横暴で、残酷だ。
ひどい世界だ。
人として当たり前に生きることすらままならない。
そんな世界はきっと悪でしかないはずだ。
巨人も人間も、ただ当たり前に生きているのにこんな悲劇が起こるような世界が、正義であるはずなんかないのだ。
きっと私のいた世界が正しくて、この世界は間違っている。
それは外部から来た私だからこそ分かることで、この世界の住人の彼らには分からないことなんだ。
だから、私が。
私がやらなくちゃ。
私が変えなくちゃ。
私が救わなきゃ。
みんなを。




 
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