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□bifrostT
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巨人化したユミルが木々を颯爽とすり抜けてくる。
それが近くまできたところを見計らってライナーが巨人化し、エレンを背負ったベルトルトとユミルを乗せて走っていく。
私はそれを見送ったあと巨鳥化し、彼らの上空を追尾した。
鎧の巨人が走るのよりも私の移動速度の方が早いため、時折上空で旋回して彼らと歩調を合わせた。



104期生がライナーに群がっていく様子を上空で眺めていた。
彼らは示し合わせたかのように、あっという間にライナーにぴたりとくっついた。
その様子に、ゾッとした。
急に、彼らが兵士であることを思い知らされた気がした。
私が知っている、訓練兵団で教官に怒られながら賑やかにやっていた頃の彼らとは、違う顔をしていた。
あのおバカで頭のゆるゆるなコニーでさえ、真剣な表情をしていた。
訓練兵時代のように、卒業するために立体機動の腕を磨くのとは違う。
立体機動装置を使いこなすことで褒めたり感心したりするあの頃とは違うのだ。
今は命のやり取りの真っ最中なんだと、急に理解した。
それと同時に腹の底が冷えて思わず息を呑んだ。
彼らはともに笑い合う仲間ではない。
巨人を殺すための刃を持ち、巨人を殺すための大義名分と強い意志を持つ兵士なんだ。

ああ、今すぐにでも。
うなじを隠さないと。
巨人化しないと。
逃げないと。
殺されてしまう。
ベルトルトが。

あまりの恐怖に涙が滲む。
けれども今、私にできることは何もなかった。
ライナーのように硬化できない私は、うなじを斬られたら最期だ。
そして、私にたどり着くことさえできてしまったら、人型のように格闘術を披露したりできない以上、抵抗などほとんど出来ないに等しく、赤子の手を捻るように簡単に殺すことができてしまう。
そうなってしまったら完全に無駄死にだ。
私にはただ、良い方に転がってくれるように。
ベルトルトが生きていてくれるように。
彼と一緒に故郷へ行けるように、願うことしかできなかった。



前方を見据えて、ああ、ついに来た、と思った。
騎馬兵が大量の巨人の群れを引き連れている。
そんな中あちらこちらで兵士は巨人に食われ、主人を失った馬が途方に暮れていた。
巨人の群れに気付いたミカサたち104期生は徐にライナーから飛び離れ、散開し、距離を取る。
一瞬にして地獄絵図が出来上がった。
大量の巨人が群がり殺し合いをしている。
その中心にはライナーがいてベルトルトがいてユミルがいてクリスタがいる。
私が守らなければならない人たちが、いる。
焦る。
心臓が、気管が締め付けられたみたいに緊迫する。
もう駄目だ。
ああ、来る。
エルヴィンが、兵士たちを引き連れて追い打ちを掛けに来る。
もう駄目だ。
ああ、守らないと。
間に合わなくなる。
ベルトルトに、
みんなに、
普通の生活を。
当たり前の日常を。

私が知っている、平凡な日常を。



空中を舞っていた巨鳥が、徐に巨人の群れ目掛けて急降下した。
鎧の巨人に群がっている巨人のうちの一匹に真っ直ぐに飛んできたかと思うと、うなじを嘴で抉り殺す。
巨鳥は手当たり次第に巨人のうなじを抉っていく。
何かに憑りつかれたように一心不乱に鎧の巨人から他の巨人を引き剥がしていく。
それしか頭にないように、周りの様子など見えていないようで、あっという間に巨人の数は減っていく。
巨鳥に向かって真っすぐに馬を走らせたエルヴィンには目もくれず、巨鳥は巨人を食い散らかす。
巨鳥にとっては一瞬の出来事に感じただろう。
エルヴィンが迷うことなく巨鳥のうなじをその刃で削ぐ。
その瞬間を周りで見ていた者たちは、巨鳥が死んだ、と思ったことだろう。
その傷口から鮮血が溢れ出すことだろうと思っただろう。
エルヴィンによって刻まれたその傷口から、ふわりと淡い光が零れる。
それは瞬く間に目を覆うほどの強烈な光となって辺り一帯へと広がっていく。

その様子をウォール・ローゼの壁上から見ていた兵士には、虹が掛かったように見えていた。
雨が降ったわけでもない平野に掛かる虹。
異様な光景だ。

巨鳥のうなじが削がれた数瞬後、激しい光の爆発が落ち着いた頃。
辺り一帯には生きた人間は誰ひとりとして残っていなかった。
ただ静かに馬が草を食んでいた。




 
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