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□bifrostT
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847年。
104期生として訓練兵団に、彼らは入団する。
そしてまた、私も。



乗り慣れた屋敷の馬車から降りて運転手に軽く礼を告げる。
雰囲気的には学校の入学式を彷彿とさせる光景で、同じように入団希望者がぞろぞろと人の波を作っていた。

ついに、来たんだ。
トロスト区訓練兵団支部に。

人の波に従って、たまに案内係の指示に従って移動する。
周りを見回しているといくつか建物や訓練装置のようなものが目に留まるが、大部分はだだっ広い地面と木々が覆っていた。
きょろきょろと周りを見回しながら歩いていると、女子はこっちだ、とひとつの建物に通される。
男子は近くの別の建物に通されているのを横目で見た。
建物に入って中に進んでいくと、既に兵服に着替えている女の子がチラホラ目に入った。
学校の入学式だったら校長やら色んな大人たちの長ったらしい挨拶があるものだが、どうやらここでは違うらしい。教官の恫喝がその挨拶代わりといったところか。
私はベルトに苦戦しながらも黙々と兵服を身に着けていった。



「貴様は何者だ!?」

「ハッ!シガンシナ区出身!アルミン・アルレルトです!!」

「そうか!バカみてぇな名前だな!!親がつけたのか!?」

「祖父がつけてくれました!」

教官が一人ひとり恫喝していく。
中には何も言われていない人もいるみたいだ。
自分の順番が近づくにつれ、緩やかに緊張やら畏怖やら面倒臭さやらといった気持ち悪さが綯交ぜになった感情が不愉快に胸をぐるぐると渦巻いた。

次は私か。
人格否定されるのはあまり気分の良いものではないが、恫喝されるだけだ。普通にしてればすぐ済む。

そう言い聞かせて自分を落ち着かせていると、私の前を教官が素通りし、隣にいた次の訓練生に恫喝をしていた。

ああ、良かった。怒られずに済んだ。
そう思うと同時に微かに胸の奥で、本当にこれで良かったのか、と不安のような違和感がじわりと影を落とした。



「本当か!?」

「どのくらい大きいんだ!?」

夕食時。
気付いたときには向こうに人集が出来ていた。
訓練生達がエレンを取り囲み質問攻めにしているようだ。
いくら初日とはいっても、食事中にこんなにざわついていると教官が来るんじゃないかと冷や冷やして、味わうどころではなくなってきたご飯をただ黙々と胃袋に収めていく。
隣に座っていた女子が、やーね!野次馬じゃない、などと吐き捨てたがおそらく自分も話の内容が気になっているのだろう。チラチラと盗み見ている。
私はあんな野蛮な奴らとは違うとでも言いたいのか。そうして貴族である私に取り入ろうとしているんだろうか。
なんとなく嫌な気分になって、喉に詰まりそうなパンと一緒に嫌な気分を水で流し込んだ。
エレンの方から超大型巨人や鎧の巨人といった単語が聞こえてきて、噂の渦中である彼らの方をちらりと盗み見た。
ベルトルトもアニもライナーも別段取り乱した様子はなく、毅然とした態度で食事を続けている。
同じ巨人化能力(私の場合は巨鳥化ではあるが。)を持つ彼らと私との差を見せつけられた気がして、なんとなく自尊心を刺激されて、思わず手元に視線を落とした。
あまり美味しくはないパンとシチューが私に食べられるのを待っている。

溜息を吐いて、ついでに深呼吸をして。
自分を落ち着かせ、パンに齧り付いた。

やっぱりここのご飯はあまり美味しいとは思えなかった。


 
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