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□short
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閉じた瞼の上から太陽光を感じて意識が浮上する。
薄いレースのカーテン越しに差し込んでくる西日が眩しい。
ぼんやりとした頭で自分の置かれている状況を整理していく。
時計を確認すると午後5時過ぎを指していた。
私はベッドで寝転がっていて、隣にはベルトルトがいる。
そうだ、一緒にお昼寝をしていたんだった。
今日は休日で、何をしようか、買い物にでも行こうか、DVDでも借りてきて二人で観ようか、なんて話をしていた。
午前中は掃除をして、お昼ご飯を一緒に作って食べて、疲れているせいで判断力の鈍った思考であれこれ悩んでいるうちに、二人して寝落ちしてしまったのだ。
おかげですっかり体は軽くなっている。
休日らしく今日はしっかり休んでしまった。
そこまで理解したところで、伸びをするべく上体を起こそうとする。
片腕をついて起き上がる体勢になっていたところを、隣で寝返りをうったベルトルトの腕に抱きすくめられるように押し倒された。
驚いて小さく、うわっ、と声が出てしまったが、ベルトルトはまだ寝ているのか、反応はない。
隣にぴったりと寄り添ってくれている彼と、私が起き上がるのを阻止している腕の心地良い重さに、安心する。
なんとなく嬉しくなって、彼の胸元に自分の頭を猫みたいに擦り付けた。
それに反応するみたいにベルトルトの腕が私の背中に回って抱き締められる。
彼の抱き締める力は割かし強いので、真正面を向いていたら鼻が胸板に押し付けられて潰される!と思い、少し顔を逸らしてベルトルトの胸に頬を沿わせる。
ぐっと近付いた距離に一体感を覚え、堪らず私も彼の背中へと腕を回した。
ベルトルトの存在を間近に感じていると鼻先を彼の香りが掠めて、それに釣られるように大きく息を吸い込んだ。
ベルトルトのにおいで肺が満たされていく。
これ以上空気が入らなくなって、仕方なくほんの少し息を吐き出した。
その暖かい息は、彼の首元に遮られるようにして、目の前の空間に溜まっている。
その生暖かい空気が、体温が、情事を彷彿とさせて思わずうっとりとする。
堪らず目の前にあるベルトルトの首筋に口付ければ、とうとう目が覚めたのか、ん、とベルトルトの鼻に掛かったような声が降ってくる。
目が覚めた?と彼の顔を見て訊こうと思い胸板を押してみるが、想定していたのと違って少しも腕の力が緩むことはなかった。
仕方なく、そのままの体勢で、ベルトルト?と彼の名前を呼んでみる。
なに、と返ってきた返事は寝起きの声だ。
滑舌が悪く、低くて色っぽい。
今にも絡め取られてしまいそうだ。
どきどきしながらも、なんだ起きているんじゃないか、と思って、再び胸板を押してみるが、少しも離れてくれる様子がない。
それどころか、逆に抱き寄せられてしまい、片腕が腰へと回ってぐっと引き寄せられる。
これ以上ないくらい密着する体に、思わず、ん、と鼻に掛かった声が漏れてしまった。
それが恥ずかしくて気を紛らわせるべく不機嫌そうな声を取り繕って、ね、起きてる?、と再び声を掛けた。
これにも、んー、と間延びした声が返ってくるだけで、解放してくれる様子はない。

「ね、いい加減、」

寝惚けてないで晩御飯の材料買いに行こう、と続くはずだった声は、ベルトルトがナマエの服の中に手を入れて腰を撫でたことで、ひゃ、という悲鳴に変わった。
驚いて抵抗できずにいるうちに、ベルトルトの手は好き勝手にナマエの腰やら背中やらを撫でていく。
大きくて暖かい、男性らしい無骨な手で撫でられるのが気持ち良くて、抵抗する意思をみるみる奪っていってしまう。
興奮してしまっているのか、息も顔も熱い。
恥ずかしい。
そう思って意識を顔に集めていると、ふと、頭上から降ってくる熱い吐息に気付いた。
驚いて、嬉しくて、色んな感情で頭が軽くパニックになりかけて、弱々しい声でなんとか、ベルトルト、と彼を呼んだ。
艶っぽい擦れた声で、なに、と返事がかえってきた。
それと同時に、それまで蠢いていた厭らしい手は動きを止めてしまう。
それがもどかしくて。

だめだ、やめないでほしい、もっと、続きを、

求めてしまいそうになる本能を、甘美な誘惑を断ち切るように、

「晩御飯どうするの?」

と声を絞り出した。

あーあ、言っちゃった、もったいない、このまま流れに身を任せてしまえばよかったのに、

ナマエをぐっと抱き締めたまま、彼女には見えない位置でベルトルトはうっそりと微笑んだ。

「僕は、晩御飯はナマエがいいな」




 
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