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□short
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ふと立ち止まり、空を見上げた。
私が吐き出した白い息の向こうに、たくさんの星たちが瞬いている。
漆黒の闇の中に浮かぶそれらが、とても小さくて目を凝らさなければ一つ一つを見失ってしまいそうなそれらが、やたらと存在感を放っていた。

冬の夜道は嫌いだ。
あの人を思い出すから。

同年代にしては随分と背の高い、優しげな笑顔の彼。
ベルトルトは今は一体何をやっているのだろうか。
ライナーやアニと一緒に訓練兵団に入ると言っていたから、今は駐屯兵にでもなっているのかな。
もしかしたら憲兵になってるのかも。
大人しくて控えめでどちらかというとインドア派に思われがちな彼は、意外に運動神経が良いのだ。

開拓地の作業場からの帰り道、彼はマフラーの奥に人懐っこい笑顔を忍ばせていつものように、また明日、と告げた。
夜が降りてきて彫りの深い目元は影になり、高い鼻をいっそう際立たせた。
冬の寒空の下で、着膨れた背中を彼に気付かれないようにいつまでも眺めていた。
吐き出した白い息には、彼への私の気持ちが溢れてしまっているように思えて、マフラーで口元を隠した。
唇にごわごわしたマフラーを感じながら、あの人の唇を、素肌を、体温を想った。

あの夜がずっと目蓋の裏から離れてくれない。

冬の夜空を見上げたまま深く溜息を吐いた。
ぎしぎしと音を立てていた胸がほんの少しマシになった気がした。




 
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