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「今日飲み会あるから帰るの遅くなるねー」

朝の忙しい時間なのでちらちらと時間を気にしながらフェイスパウダーをはたく。
既に支度が済んで家を出ようとしているベルトルトの背中に向かって声を掛けた。

「あ、うん、わかった。楽しんでおいで」

「んー、いってらっしゃーい」

「いってきます」

バタン、と玄関のドアが閉まる音を聞いて本格的に支度を急ぐ。
なんとか間に合いそうだ。
家を出る前に、さーて今日も一日頑張りますかー、と一人、ぐっと伸びをした。

日々の疲れを労うような賑わいを見せている呑みの席。
ついつい酒が進んでいた。
それもこれも朝のベルトルトの態度が引っ掛かっていたからだ。
飲み会っていったら当然男がいるのも分かるだろうに。
行くなとは言わなくても嫌そうな態度くらい取ってくれたっていいじゃないか。
これじゃ私ばっかり好きみたいだ。
プロポーズだって、してくれないし。
もう何年同棲してんのよ。
やっぱりベルトルトにとって私って、そんなに大した存在じゃないのかな。
はー、と盛大に溜息を吐いていると後輩が隣に座ってきた。
女を取っ替えひっ替えしているって有名な男だ。

「先輩、溜息吐いてたら幸せが逃げちゃいますよー?」

あ、勿体無いから先輩が吐いた幸せ俺が貰っときますねー!なんて言いながら私の前の空間を自分の方へ仰ぐ仕草をしている。
鬱陶しいけど面白い奴だな。あんまり関わりたいとは思わないけど。

飲み会は現地解散ってことで、店の外にぞろぞろと出ているとさっきの後輩が構ってくる。
きっと彼なりに励ましてくれているんだろうな。
かなり飲んでいた私は適当に、んー、とか返事をしていたら、先輩大丈夫ですかー?肩貸しましょうかー?なんて言いながら後輩が腕をこちらに伸ばしたときだった。

「僕の彼女がお世話になってます」

ぼんやりとした頭で声を聞いて顔を上げるとベルトルトが迎えに来てくれていた。
おまたせ、なんて優しい声で話し掛けてくれるから、んー、なんて適当に返事しながら彼に抱きついた。
暖かくて、大きくて、気持ちが良い。
すごく、安心する。
近くに停めてあるらしい車まで歩く間、彼の腕にぎゅっと抱きついて頭をくっつけていた。
されるがままなベルトルトに、嫌がる素振りを見せない彼に、嬉しいような物足りないような。

「迎えに来てくれてありがと」

「まあ、彼氏だから、ね」

「…うん」

ああ、やっぱり私ばっかり好きなのかな。
素っ気ないような彼の返事に、寂しさが募る。

「それに、君が他の男に言い寄られてるのは、あんまりいい気分じゃないんだ」

彼を見上げると、眉間に皺を寄せ、片手を口元に当てて何か考えているようだった。
歩きながらアルコールで上手く回らない頭でぼんやりと眺めていると、なんだかそれだけですごく満たされた気持ちになってきて。
彼の表情に引き込まれていくようで。

まだしばらく恋人以上家族未満のこの関係でもいいかなって思えてしまうんだ。




 
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