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□bifrostU
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きっかけは、帰り道に見たカップルの相合傘だった。
動機は、ほんの少しの悪戯心と、劣等感だった。


三人でいつも一緒にいた。
小さいときからずっと一緒で、それが当たり前だった。
そうして僕はずっと見てきた。
彼女の横顔を。
ライナーの冗談で楽しそうに笑う彼女の横顔を。
それがすごく鮮明で、頭にこびり付いて離れないんだ。

彼女の隣は僕じゃない。

いつもの帰り道。
いつの間にか歩調が遅れて二人の後をついていく。
惨めだった。
少しして、僕が遅れていることに彼女が気付いて歩調を合わせてくれるのも、僕を惨めな気持ちにさせた。
大好きな彼女に気を使わせてしまうのが、とても
そんな自分がとても悲しかった。

だって、リーダーシップがあって頼りになるライナーと、大人びていて成績優秀な彼女と、僕だったら、誰の目から見てもライナーと彼女がお似合いじゃないか。
分かってしまうんだ。
分かりたくないのに。
見ない振りしておけばいいのに。
あまりにも明らかだから。
僕はライナーに嫉妬している。
ライナーが羨ましい。
彼女のことが好きなのに、きっと手が届かないであろうことが、もどかしい。
彼女がもっと劣等生であれば、もしかしたら僕にだってあるいは。
そう考えてしまうほど。
僕は、喉から手が出るほど彼女が欲しかった。
せめて彼女が何か失敗をしてくれれば。
僕が救いの手を差し伸べられれば。
少女漫画の王子様みたいに颯爽と彼女を助けに上がることができれば。
少しは気が晴れるかもしれない。

そう思って僕は、嘘を吐いた。



「あ、そうだ、ライナー」

三人での帰り道、僕がライナーに思い出したように話しかけると、ライナーが傘を傾けながらこちらへ振り向いた。
それと同時に、ざーっと傘に振り溜まっていた雨が僕の反対側にいたナマエちゃんの方へと流れる。

「ちょっと、ライナー!」

気を付けてよ、と憤慨する彼女に、すまんすまん、と笑いながら適当にいなすライナーが、羨ましい。

「で、なんだ、ベルトルト」

「ああ、明日の数学のことなんだけど、明日僕が当てられそうだからさ、一緒に予習でもしようかと思って」

「あ、いいなー、私も混ぜて!」

僕の提案に、彼女が乗ってくれるのが、なんだか複雑だった。
もしも僕が彼女だけを誘っていたら、どういう反応をしていたんだろうか。
ライナーが一緒じゃなかったら、彼女は。
気まずそうに顔を顰める彼女が翳めて、鈍痛のような寒気がするような、不快感が襲った。

ライナーとナマエちゃんが夫婦漫才みたいに騒いでいるのをぼんやりと鬱屈とした気持ちで眺めていると、視界にカップルが留まった。
相合傘をして、楽しそうにいちゃついている。
あの傘の中は二人だけの世界で、周りのことなんて見えていないような様子だった。

「なんだ、羨ましいのか、ベルトルト」

にやにやしながらライナーが僕の顔を覗き込んできた。
咄嗟に、違うよ、といったけれど、自分の頬が熱くなるのを感じた。
これでは説得力がない。
はっとして、思わずナマエちゃんの顔を見てしまった。
ぽかん、とした顔をかち合ってしまう。
その表情から何も読み取れなくて、ほんの1、2秒見つめあっていた。
とても長く感じる時間だった。
そうして彼女は、ふっと表情を緩めた。
とても安らかで、それなのにどこか苦しそうで、一見すると笑顔なはずなのに、どこか諦めや寂しさを感じさせる表情だった。

「ベルトルトも彼女が欲しくなっちゃったのかなー?」

彼女のその言葉に、僕の世界だけが一瞬で凍り付いたようだった。
なんで、

「そうかーベルトルトもそういうお年頃かー」

「お前も同い年だろうが」

ライナーに突っ込まれて彼女が笑う。

どうして、
僕が好きなのは、君なのに

世界が絶望で黒く染め上げられる。
こんなことってあるだろうか。

二人の会話がどこか遠くに聞こえる。
頭の中をつらつらと言葉が声が滑っていく。
そうして聞き流していた言葉の中に、明日は晴れるといいね、という彼女の言葉を見つけた。
今週はずっと雨だ。
そう天気予報でいっていた。
何もかもぶち壊したくて、悲しくて、僕は彼女に、

明日は晴れるよ

と、そう言った。




 
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