bookshelf

□bifrostU
6ページ/7ページ






ざあざあと雨が降っている。
ナマエは窓の方を眺めて溜息を吐いた。
せっかくの土日だというのに雨だなんて。
ついてない。
こうも気圧が低いとテンションも上がらないし何もする気になれない。
部屋着のままベッドでごろごろと寝返りを打った。
ぼんやりと部屋の中を見渡して、特にすることもないなと結論付ける。
再び寝返りを打つと、手に携帯が当たった。
徐に携帯を開いてみる。
ベルトルトとのメールのやりとりを眺めて癒される魂胆だ。
そうしてにやにやと癒されたあと、もう一度寝返りを打った。
相変わらず雨脚が弱くなってくれる様子は見受けられない。

『今日は雨だね』

ベルトルトにメールを打ってみた。
過度に期待はせずにそのまま携帯を閉じて枕元に放り投げる。
そうして二度寝でも決め込もうかと思っていると、数分もしないうちにメールが届いた。

『そうだね、早く止むといいね』

なんだ、ベルトルトも暇しているのか。
私は嬉しくなって、素早い手つきでメールを打ち込んでいく。

『雨だとどうしても憂鬱になっちゃうよね〜そういえば駅前のショッピングモールって雨の日は安くしてくれるお店が多いよね、行ってみない?』

返事はすぐに来た。



すぐさま着替えて階段を駆け下りる。
お母さんに、どこか行くのと聞かれたから、ベルトルトと買い物に行くと正直に答える。

「あらあら、デート?いいわね〜でもいくらベルトルトくんでも一応男の子なんだからね、気を付けなさいね」

「大丈夫だよ、ベルトルトのお父さんお母さんしっかりしてる人じゃん、何かあってもちゃんとお嫁に貰ってくれるよ〜」

「結婚式用のドレス何来て行こうかしら」

お母さんと冗談を交わしながらお気に入りの靴を履いてお気に入りの傘を持った。
今日は完全に勝負服といった様相だ。

憂鬱な雨の日でも、お気に入りの装備一式に身を包まれていればやはり気分は高揚するものだ。
それもベルトルトに会いに行くんだ。
テンションが上がらないわけがない。



待ち合わせ場所に着くと既にベルトルトがそこで待ってくれていた。

「ごめん、お待たせ」

「ううん」

「急に呼び出しちゃってごめんね」

「ううん、そんな、僕も雨で家に閉じこもってたからさ、ちょうどよかったよ」

へにゃりとはにかんだベルトルトが見れただけでもここまで来た甲斐があったというものだ。
とても癒される。

雨の日だからと安くなっている商品を見て歩いて、会話をするだけでも楽しい。

このショッピングモールにはシアターがあり、そこも雨の日は割安になっていたはずだ。
チケットを買うために窓口へと向かう。


「チケット2枚欲しいんですけど」

「2枚ですね、カップル割にしておきますね」

店員のお姉さんにそう言われ、思わず、え、と驚きの声が出た。
ちらりと隣のベルトルトの様子を窺うと、彼もこちらを覗き見ていたようで目が合った。
そのままベルトルトがさっと目を逸らす。
頬が薄紅色に色付いていた。



僕たちはあれよあれよという間にチケットを受け取って指定の席へと移動した。
ポップコーンやら何やらを買っているような気持ちの余裕はなかった。
そうして席に着いて、手すりの存在にどきりとした。
シアターの座席というのは存外隣の席との距離が近いものだ。
ナマエの服が腕に擦れ、そこが微かに熱を持つ。
斜め前に座ったカップルが手すりの上で手を絡ませている。
思わず膝の上で手のひらを握りしめた。
じんわりと手のひらが汗をかいているのがわかる。
万が一、万が一にでも、ナマエの手を握ることができたとして、こんな手汗まみれの手では嫌われてしまうんじゃないだろうか。
ナマエに気付かれないように何とかズボンの裾で手を拭おう。
いやでも、ズボンが湿っているのも嫌われそうだ。
一体どうしたら…。

「さっきの店員さん、カップル割だってね」

いきなり核心を突かれたことで、大きく心臓が跳ねた。
ただただ動揺しすぎていてどもり声で、そ、そうだね、と返すしかできない。

「カップル割って結構安くしてくれるんだね、また今度もカップル割で来ちゃおうか」

楽しげな声でそう言ったナマエの横顔はほんのりと頬に色付いていた。




 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ