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□bifrostU
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「わあー!」

一面に広がる雪景色に、思わず生徒たちから感嘆の声が零れた。

バスが到着し、下りた生徒たちが次々に楽しそうな声を上げていく。
コニーとサシャが追いかけっこを始めようとしてすぐに足を滑らせていた。
顔面から派手に雪に突っ込んでいく様はさすがといったところか。
指をさして馬鹿笑いしているコニーもバランスを崩して転んで間抜け面を晒していた。

一泊二日という短い期間ではあるが、同級生たちと仲良くなるというこの合宿の目的は充分に果たせそうな予感がした。
それくらいの胸の高鳴りを感じた。

先生を先頭に歩いていき、まずはチェックインをして荷物を置く。
慌ただしくスキーウェアに着替えてロビーに集まった。
注意事項や集合時間を再確認し、解散の声が掛かるとみんな意気揚々とスキー場へと向かっていく。
きょろきょろと見回しているとライナーと目が合ってこっちへ来てくれた。

「ベルトルトどこだろ?」

「さっきから探してるんだが、お、いた」

にこりと微笑むとベルトルトもはにかみ返してくれる。

「二人とも運動神経いいよねー上級者コースいくの?私はとりあえず初心者コース滑ってみてからにしようと思うんだけど」

「ナマエがいくなら僕も初心者コースを滑るよ」

「ナマエお前スキー初めてなんだろ?教えてやるよ」

二人からの頼もしい言葉に思わず笑顔になる。
ああ、やっぱり幼馴染なんだな、と長い時間一緒に過ごした信頼と安心感にほっとする。

三人でゴンドラに向かって歩いていく。
雪を踏みしめる音がそれぞれ聞こえて楽しい。
ベルトルトは足が長い分歩幅も大きく、踏みしめる音の間隔も長いのだ。
ふとゴンドラを見ているとカップルが目に留まった。
そこでハッと気付く。
ゴンドラは二人乗りなのだ。
隣にベルトルトが座るのを想像してしまい思わず顔が火照る。
ベルトルトと二人きりで、すぐ傍で、すぐ隣で、手が触れてしまいそうな距離で、顔の距離も近くて、まるで恋人同士みたいで…
そうやって考え始めると手汗まで滲んできた。
鼓動が激しくなっていくのが抑えられない。
絶対顔も赤くなっているしこのままじゃバレてしまう、平常心、平常心。
そうやって念じているうちに無情にも乗り場に辿りついてしまう。
私たちの番がすぐそこまでやってきたとき。

「お前は先に行ってろよ、俺たちは次ので行くから」

そういってライナーが私を前へ促した。
促されるままにゴンドラに乗って空の旅へ。
待ってくれ。
なんだこれは。
なんで私ひとりで先に行かされてるんだ。
ガタイの良い男二人でゴンドラに乗るのきつくないのか。
とりあえず私の胸の高鳴りを返せ。

ひとりで乗るゴンドラは、なんとなく肌寒いような気がした。


ライナーが丁寧に教えてくれたのもあって、割とすぐに慣れて滑ることができた。
私の少し前を誘導してくれるライナーの背中を見ながら滑る。
様子を見ながら少し後ろを付いてきてくれるベルトルトに、嬉しくて思わず顔がにやけてしまう。
それにも微笑み返してくれるベルトルトは天使かもしれない。
癒される。

そうして下まで一度初心者コースを滑ってみて、大丈夫そうだから次は中級者コースに行ってみようという話になった。
二人とも確実に上手いし上級者コース行く?と聞いたらライナーにお前が心配だからと断固拒否された。
ちょっと過保護なんじゃないか。

中級者コースはさっきよりも斜面が急になっているらしい。
スピードも結構出そうだ。
慣れてきてスイスイとスピードを出しながら器用に滑っているとだんだんと楽しくなってくる。
なぜだろう。
知っている。
身体が覚えている。
通り道を先読みしながら重心を上手く操っていくこのかんじは
その瞬間。
レンガ造りの建物の隙間を縫っていく光景がフラッシュバックした。
ワイヤーを巻き取る音を聞きながら、両手には剣を持っている。
身体が覚えている。
この剣でうなじを深く抉り取るのだ。
あれは、人類の敵。

「ナマエ!!」

はっと我に返ったときには、もう既に視界は白で埋め尽くされていた。
そのまま顔から突っ込んでごろごろと重力の成すがままに転がっていった。
動きがとまったところでゆっくりと身体を起こす。
シャーっと滑る音がして、二人がすぐに駆けつけてくれた。
雪まみれになった上着の袖をパンパンと軽く叩いていく。

「大丈夫か!?」

ライナーが熱血漢らしい顔つきで覗き込んでくる。
とりあえずコクコクと軽く頷いておいた。
近くに立っているベルトルトの方を見ると、今にも泣きそうな顔をしていた。
悲しい。
ベルトルトが不安そうな険しい泣きそうな顔をしているのは、悲しい。
それがあまりに居た堪れなくて、思わず顔をしかめた。

「どこか痛むのか!?」

すかさずライナーが心配してくる。

「大丈夫だよ」

「いや、念のため医務室にいく、とりあえず宿に戻るぞ」

ライナーがてきぱきと決めていく。
大丈夫だと言い張ってもこれはもう聞いてくれなさそうだ。

「立てるか?」

「ん、大丈夫」

身体はどこも痛むわけではないので、立ち上がって軽くお尻についた雪をはらって立ち上がった。



保健室の先生に一通り見てもらい、とりあえず安静にしておくようにと部屋で休むことになった。

まだ頭がぼんやりとする。
両手で顔を覆って項垂れる。
いろんなことを思い出す。
感慨にふける。
みんな死んでいったんだ。
ミーナも、フランツも、マルコも、アニも…
アニ?アニは…
アニは生きてた。
私が置いてきた。
私が連れてこれなかった。
救いそびれた。
残してきてしまった。
私のせいだ。
私が、救えなかった。
みんなみんなみんな、私のせいで、



私は、
私には、

この世界で幸せになる資格なんて、あるのだろうか




 
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