メモ2
□明日どこかいこうか
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「まゆ明日、予定ある?」
えりたんがソファに座って大きなミーアキャットのぬいぐるみを抱えながら聞く。
隣でコーヒーを飲みながら、台本を読んでいる私は、今は次の御披露目公演のことで頭がいっぱい。
「う〜ん…どうだったかな〜」とどっちつかずな返事をしてしまった。
するとえりたんは、その答えも気にしないような素振りで再びミーアキャットと遊び出す。
彼女は、読み合わせ以外では私の前で台本は読まない。
私だっていつもならそうなんだけど、今回は御披露目で少し力んでいる。
今日もえりたんが家に誘ってくれたのだが、台詞を覚えるために一度断っていた。
だが、「どうしても!」とえりたんにせがまれて台本付きならってことで、OKした。
でもよくよく考えてみたら、えりたんがいるのに、こんなに一生懸命台本を読んでいる私は、かなり失礼だなと思う。
さっきの返事で本当に彼女の機嫌を損ねなかったかな…
気づけばミーアキャットに話しかけていた彼女の声がなくなったのもあって、不安になって顔をあげる。
そんな心配をよそに彼女はぬいぐるみを抱えてスヤスヤと眠っていた。
このままだと体を痛くすると思って、抱っこして寝室へ運ぶ。
彼女をベッドに下ろすと サイドテーブルに私と同じ台本がもう一冊。
その時、ハッと私は気付かされる。
彼女だって私と同じ公演に出る。
彼女だって私と同じくらい大変なのだ。
それでも、私との時間を作ろうと努力して私と向き合ってくれているということに。
たぶん、御披露目だからと力みすぎている私を心配してくれたのだろう。
そんなことを思ったらえりたんの優しさに嬉しいやら、自分のワガママさに腹が立って、悔しいやらで涙があふれでてくる。
その時
「ん…んぅ〜!」
えりたんが目をさました。
大きなその目は私をすぐにとらえ、私の頬に手を伸ばす。
「ごめんな…まゆ。私が呼んだのに、ほったらかしにして、寝てしもたから (汗)」
私が泣いているのを、自分のせいだと勘違いして慌てる彼女。
「違うよ、えりたん。嬉しかったの。」
「え?」
私の頬にある手に手を重ねて首を振ったら、彼女は不思議そうな顔をした。
「えりたんが、今日私を誘ってくれたこと」
「そんなんいつものことやん」
「いつものことでも嬉しかったの!」
「変や!まゆ、なんかあったん?稽古で失敗したんか?」
「失礼な!」
「ふっ、ははっ!」
「ふふふ」
私の涙は、もうそこにはなかった。
これもえりたんがそばにいてくれるから。
「まゆ」
「ん?」
「まゆには、組子みんながついてんねんで、やから大丈夫。」
「うん。ありがとう。えりたん。」
やっぱり私の同期はなんでもわかる。
ううん、それ以上にもっと特別な人。
「えりたん、明日どこか行こうか?」
「うん。」
これからもたくさん一緒に出かけようね。