メモ2

□子守唄
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えりたんが東京公演に行く前にひょこっと私の家に来た。

扉を開けると

「まゆ、わたし明日から東京やねん」といつものケロッとした顔で言う。

「うん。知ってる」

「まゆちゃんの美味しいご飯食べにきてんで」

「うそ。冷蔵庫のもの腐らせないように食べちゃったから、なんにもないんでしょ?(笑)」

「あ…ばれた?」

「やっぱり!いつも言うてるやん、計算して食べって」

「そやけど…むずかしいんやもん…」

私が呆れて言うとえりたんは、小さくなってしまった

「まぁ、そういうと思って、余り物だけど残しといた」

「さすがパパ!わかってるやん!」

あ、またガキんちょみたいに目を輝かしてる。

しまいには、「まゆの料理は世界一やぁ〜」とまで、べた褒めしている。

そんな美味しそうにご飯をほお張るえりたんを見て、 今夜は彼女と一戦交えることになりそうやなと思う。

えりたんは、結構強引。
でも、彼女に迫られるとなぜか許せてしまうのは、私にとってかけがえのない人だからだろう。

東京公演に行くと1ヶ月帰れない。
会うこともなくて、 2人とも寂しい気持ちになる。

だから、必ず東京公演に行くときは、お互いの家に行くことが暗黙のルール。


たぶん、冷蔵庫のもの腐らせないようになんてのは、口実にすぎない。

それを2人とも分かっててやりつづけるのも、暗黙のルール。

そんなことを考えていたら、えりたんはもうご飯を食べ終わっていた。

「まゆ、一緒に風呂入ろう?」

「私は、もう入ったから、えりたんいってらっしゃい」

「なんや、つまらん」

彼女はいじけた小学生みたく風呂場へ歩いていった。

私は、えりたんのパジャマを用意して、えりたんの食べ終わった茶碗を片す。
すると、ふわりと後ろから温かい感触が包んだ。

「まゆ、いつもありがとう」

耳もとにえりたんの声と濡れた髪が触る。

「髪乾かしっていつも言ってるやろ!風邪引くで?」

私は、一戦交えるゴングをならされる前に…っと、えりたんをたしなかる。
でも彼女の方を向いてみると、とても眠たそうな顔をしていた。

「はぁぃ…」

眠たそうな顔をしながらも、私から離れて彼女は洗面所へ向かっていった。

ドライヤーの音がやんで、私も寝る準備をしていると、さっきより眠たそうな彼女が戻ってくる。

その顔から今夜の一戦はないなと感じる。 こうなると、すぐ寝るのが彼女の良いところだ。

「えりたん、明日何時?」

「6時」

6時?早い。いつもより1時間は早い。
でも、もしかしたら家に帰るかもしれないし、仕事があるのかもしれない から、目覚ましを準備する。

「まゆ…」 眠そうなえりたんが、目覚ましを準備する私に話しかける。

「ん?」

「子守唄」

「え?」

「歌って…?」

目をこすりながら小学生みたいな純粋な顔がわたしにせがむ。

この顔に私は何度となくやられている。

だから、仕方なく歌う。

眠れ〜眠れ〜♪

歌い始めると彼女の寝息がすぐに聞こえてくる。

おやすみ…えりたん。

この寝顔を見ればあなたのいない1ヶ月も耐えられる。

私も彼女の温もりを感じながら目をとじた。
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