メモ2

□僕のえりこさん
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私が家に帰ると、私より先にえりたんが着いていた。


「ただいま〜」

彼女の靴の隣に自分のを並べて、玄関をあがる。
いつもならペットのように、私をお出迎えする彼女が今日はいない。



もしかして…寝てる?


なんて思いながらリビングへと続く廊下を歩いていくと、扉の前からテレビの音が聞こえた。



"僕のうさぎさん…"


これ…私の声じゃん。
なんで私の公演なんて見てるの?


そっと扉をあけると、えりたんは慌ててテレビを切って、ソファから立ち上がった。



「ただいま。なんで切るの?」


「えっ…やっ…その…別に」


明らかに動揺しまくるその表情が面白くて、ちょっといじめたくなる。



「なに見てたの?」


「普通のテレビ…ですよ」

それでごまかしてるつもり?


「ほんと?」


私が目をあわせて、私は知ってるよ…っと伝えてみる。


「…うそつかないの」


「はい…」

反省したようにうなだれる彼女。

「私の公演観てたじゃん」


「…はい」


核心につくと、えりたんはついに下を向いてしまった。

「なんで嘘つくの?ていうか、なんで隠すわけ?」


「…だって」


本当のことを言わない彼女に、ちょっと近づくと、えりたんはハッとしたように顔をあげた。
その顔に手をのばして、両手で頬を覆ってしっかりとこっちを向かせる。

「なにも言わないのは、なにか理由があるからなんでしょ?」


「…それはっ」

やばい、ちょっと泣かせてしまったかもしれない。
彼女がだんだん涙ぐんでるように見える。


「なにか言いたいって顔してるね…」

頬にあった片手で彼女の前髪をかきあげるように撫でてあげる。

「ん?」


「…恥ずかしいんやもん」


その言葉を聞いて、心配するような理由じゃなさそうだと安心する。
話してほしいと彼女の額に触れるだけのキスを落とす。

「言ってくれなきゃ、何が恥ずかしいかわからないでしょ?」


「すみかが羨ましかってん…//」


ひどく小さい声と、触れている頬に熱がたまってきているのがわかる。


「羨ましい?」


「だってあんな優しく、大事にされて…」


いつもは強がっているけど、
こんな可愛い部分を見せてくれるのは私にだけ。
おもわず私は彼女を抱き締めた。

「うん…確かに」

「っ…//」

「すみかに嫉妬するなんて恥ずかしいね。でも、芝居だから…ごめんね」


「お稽古でもナウオンでも、仲良くしてるやん。だから…私やって…恋人やのに」

えりたんが私の背中の服をきゅっと掴む。


「優しくしてほしい?」


「…はい」


「私がいつも意地悪言うから?」


「…いつもではないです…けど」


「…」

えりたんが珍しく素直に甘えている。

これは本当に優しくしてほしい時の合図。

わかっていても納得出来なかったり、無い物ねだりしたいことが誰でもあるよね…。

私は彼女の背中をポンポンと撫でる。

「私の知らんゆうひさんがいる気がして…寂しくなって…」


「うん。ごめん…でもね、普段のえりたんは、ついいじめたくなるの…面白いから」


「…」


「好きだから…小さい子みたいだけど、いじめたくなっちゃう。…あ、すみかが嫌いなわけじゃないよ。たまには、いじめてるし(笑)」

私たちに隠し事はないって信じてほしいから本音を語る。

私の愛が伝わるように…できるだけ物腰は柔らかく。

「これでも優しくしてるつもりだったけど…こうやって甘えたいこともあるよね」


「…ゆうひさんなりの優しさは、わかってますよ。でも、私の知らないゆうひさんがいるのは嫌で…//」

柄でも無い甘えたことを言ったのが恥ずかしいのか、彼女が私の胸にグリグリと顔を押し付けてくる。
その頭に手をやって、くしゃくしゃとするとちょっとだけおとなしくなった。

「可愛い…そうやって時々すっごく女の子みたいに甘えてくるとこが…」


「一応、女の子ですよ。いつも…」


「そうだった…ふふっ」


私が笑ったら、彼女も顔をあげて笑った。
えりたんの手をつかみ、その甲にキスをする。


「おいで…僕のえりこさん」


「…//」



「今夜は、優しくしてあげるよ」


私はその手を引いて寝室へ導いた。

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