侍女の災難
□プロローグ
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「紅炎様〜、紅炎様〜。どこにおられますか〜?」
はじめまして。
私は紅炎様の侍女をやっているリフィと申します。
実は先程紅炎様に書庫に新たに入った歴史書を取ってこい、と言われて取りに行ったのですが…肝心の紅炎様がいらっしゃいません。
どこに行かれたのやら。
しかたないので心当たりのある場所に参りますか。
私はため息をつきながら紅炎様を探し始める。
数分後―――
「紅炎様」
紅炎様は日当たりのよい木の下におられました。
ここは紅炎様の小さい頃よりのお気に入りの場所です。
「やっと来たか」
…一瞬、殴りたい衝動に駆られました。
しかし、そんなことをおくびにも出さず話を続けます。
「紅炎様が勝手にこのような場所に来られるからですよ」
「敬語」
「はい?」
「ここは滅多なことでは誰も通らん。敬語はよせ」
そうおっしゃる紅炎様は眉間にしわをよせておりました。
私と紅炎様は俗に言う幼馴染という関係です。
小さい頃の私は家族のように一緒に育った紅炎様に一切の敬語をつかいませんでした。
ですが、侍女になり敬語を使い始めるとあからさまに紅炎様の機嫌が下がってしまわれます。
しかたないので、2人きりの時のみ敬語を外すということになったのですが、すっかり忘れてしまいました。
「ごめん、これでいいかな?」
すると、さっきの不機嫌さが嘘のように機嫌が良くなる。
なぜなのかは、わからないけれど。
「遅かったな、リフィ」
「誰のせいです、誰の」
「さあな」
この表情、絶っっっ対わかってる。
「はぁ」
思わずため息をついてしまう。
「なぜため息をつく」
「わかってるでしょう……。はい、頼まれてたの」
「ありがとう」
紅炎は微笑みながら言う。
私は紅炎の笑っている顔が大好きだ。
できるなら、ずっと見ていたい。
「紅炎」
「ん?」
「平和ね」
空を見上げながら言う。
「当然だ」
その自信満々なもの言いについ、笑ってしまう。
私につられるように紅炎も笑う。
私達は木の下で笑いあった。