侍女の災難

□子守唄
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今日はやけに騒がしかったです。

どうやら、客人が来たようですが…どなたなのでしょう。

悪い方でないといいのですが…

「リフィ」

「何でしょうか?紅炎様」

振り向くと、そこには恐ろしいほどに眉間にしわを寄せた私の主が……

なぜ、眉間にしわを寄せているのでしょう。

これでは、まわりのものが怖がってしまいますね。

「あの、紅炎様?」

「…名前

ボソッとつぶやかれた程度の声でしたが、確かに名前、と言いましたよね?

あっ、もしかして…

まわりを見ると、人っ子1人いなかった。

なるほど、それで名前って……

「ごめんね、紅炎」

そういうとやっと眉間のしわが解けた。

「そうやって眉間にしわ寄せてばかりだといつかとれなくなっちゃうよ」

「別にかまわん」

「いや、こっちがかまうからね」

どうやら機嫌は直ったようだ。

「それで、何の用?」

「特にこれといった用はないのだが…」

「ないんだったら、早く部屋に戻って寝ること。最近また寝てないでしょ」

「寝ている」

子供のようにむっ、としたような顔で答える。

懐かしい。

「嘘ですね。目の下に隈ができてる」

「できていない」

そういって、少し顔をそむける。

これは昔からの紅炎の癖で、不利になるとよくこうして顔をそむけるのだ。

「はいはい、とりあえず早く寝よう。明日も早いんだし」

「………子守唄

「え?」

「子守唄を、歌ってくれないか?」

か、かわいい。

もうすぐ三十路の男に抱く感情ではないが、顔を赤らめながらそっぽを向いていると、昔のかわいかった紅炎を思い出す。

あのときは本当にかわいかった。

「いっ、いいよ!」

「ありがとう」

顔を赤らめながらもお礼を言う紅炎もなかなかかわいらしい。

少し残念なのが、誰もこの感情に共感してくれないという点だ。

こんなにもかわいらしいのに、なぜ皆共感してくれないのだろう。

そのことを紅明に漏らすと決まって苦笑が返ってくる。

私の方が年上なのに。

「じゃ、いこう」

小さい時みたいに紅炎の手を握りながら、寝室へ向かう。

今日はなんの子守唄を歌おうか。

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