侍女の災難
□呪魔の森
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「で、なぜ来たんですか…」
「直接聞いたほうが早いからな」
ここは私が生まれ育った、呪魔の森。
王宮からは比較的近い位置にあるこの森は、死の森と呼ばれている。
勘違いしないでほしいのは、この森にすむ生き物は決っして人を襲ったりはしない。
ここが死の森と呼ばれているのはとてつもなく広大で目印にできる道や、木などがないことである。
奥に行けば美しい湖や花畑、滝などを見ることができるが、そこまでにはまともに歩いて四日、馬で行っても二日はかかる。
その上、大概の人は方向感覚を失い、同じところを堂々巡りするのだ。
だからここは死の森と呼ばれているのだ。
なぜそんな危ない所に私たちが来ているのかというと、先程のアルマトランという世界のことについてだ。
この森にすむ生き物たちの長――私は爺さまと呼んでいる――が知っているかもしれない。
そんなことを紅炎様が見逃すはずがなかった。
「はあ」
「?どうした、歩き始めてまだそんなに経っていないが…。まあ、もう直着くだろう。そこまでがんばれ」
「わかってます。ここは曲がりなりにも私の故郷なんですよ。紅炎様よりはくわしいです」
私たちが歩いているのは獣道だ。
この獣道のあるところまで来れば、爺さま達のいる祭壇までもう少しだ。
え?
なぜ、人間がこんな所に住んでるかって?
だって、人間じゃないから。
爺さま達はこの世界のどんないきものとも違う姿をしている。
虹色に輝く大きな――私の身の丈ほど――四枚の羽根、トラのような胴体にふさふさの毛。
これは爺さまの外見だが、ほかのみんなも色の違いはあれど、似たような姿をしている。
私はそのふさふさの毛に顔をうずめるのが大好きだった。
しばらく歩くと、急に森の開けた場所に出る。
祭壇のある、この森の最深部だ。
『ひさしいな、リフィ。そして炎帝よ』
「おひさしぶりでございます、爺さま」