暗黒竜と光の剣・紋章の謎

□猛牛さん、怒る。
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「カイン…何か嬉しそうだね」
俺は主君の声に、はっとして振り返った。マズい!マルス様だ。
「何、どうしたの?」
「あ、いや…!何っにもございません!アベルの部屋に晩飯を食いに行くなんてことは…!」
ここでマルス様に感づかれては全てが終わってしまう!マルス様のことだ。
「僕も行っていいかな?」
何て仰せられたら……。俺は間違い無く断れないだろう!くそ!今日くらいはアベルと2人きりに…。
「アベルに夜ご飯作ってもらうの…?」
「はっ!いやいや…えっと………ははは…」
どうやら、俺は口を滑らせてしまったらしい。俺の夢は儚く散った。
「そっか、それなら行ってらっしゃい」
マルス様はにっこりとして、俺の横を通り過ぎようとした。
「はい?…い、いいんですか?」
「僕は全然いいよ。それより、2人きりになりたいんでしょう?行ってらっしゃい」
マルス様はお優しい方だ…!俺の全てを理解していらっしゃる…。
「マルス様!愛しています!大好きです!では、行って参りますっ…!」
俺は猛ダッシュでアベルの部屋に向かった。
「カイン、全部口に出てるの気づいてないのかな…?ま、いっか」

「アベルぅぅぅッ!」
「うるさい寄るな馬鹿」
うん!やはりアベルはアベルだ。いつものアベルだ!
ぐうぅぅぅ…
俺の腹が鳴った。そう、俺は腹ぺこなんだ!
「食いに来た!お前を!」
「はあ?………ああ、晩飯な」
アベルの奴、一瞬取り乱して…何だったんだ?
「カイン、お前はいつも主語が抜けるな。たまに何が言いたいのかわからなくなる」
「それほどでもないな!では、早く食いたい!お前の!」
何もわかってない、と言いながらアベルはキッチンに消えていった。わかってない…って何がだ?俺はアベルの気持ちくらいわかるぞ!全く、失礼な奴。

「…お待たせ」
さすが俺のアベル!早い!早すぎる!
机に2人分のポワレを置いたアベルは、俺を見て微笑んだ。
「……食べてみてよ。今日のは、自信作なんだ」
アベルは料理が上手いらしい。恥ずかしながら、俺はアベルの手料理を食ったことはない。にしても、こいつの微笑み!きっと俺にしか見せない究極の微笑みなんだ!絶対!
「ぶつぶつ気持ち悪い奴だな。早く食べたらどうだ?」
「はっ!そうだった…」
俺は美味しそうなポワレを見てはっとした。美味しそう、いや、これは…駄目じゃないか!
「アベル……貴様…」
「え?」
アベルの奴…。このポワレどう見ても。
「ビーフじゃないかぁ!!」
「ああ、牛肉だけど。駄目か?」
俺はアベルの胸ぐらを掴み、立ち上がった。
「ふざけるなッ!牛さんを食べるだと!?」
アベルはびっくりしたような顔をして此方を見ている。
「牛肉は嫌いか…?」
「好きだが嫌いだ!」
だから主語が抜けてる、アベルがそう言った気がするが、そんなことはどうでもいい。
「俺は猛牛と呼ばれる男!お仲間の牛さんを食うなど…!」
アベルは呆れたような顔をして胸ぐらを掴む俺の手を振り払った。
「共食いとでもいいたいのか?」
「そうではない!俺は同胞を食うなんて…そんなことはできないだけだ!」
そう、俺の仲間を食うなんて…。
いくらアベルでもマルス様であっても許されることではない!
「何言ってるんだ?お前は人間だろ?牛と違って食えないじゃないか」
「た…確かに…」
「それに俺の相棒はうるさいし頭は悪いし最低だが、いい人だ。頼りがいがあって、それで……カッコいい」
ぼそっとデレたアベルの言葉を俺は聞き逃す筈がなかった。
「アベルぅぅー!愛してるぞ!百年先も愛を誓う!!」
俺は照れた顔をしているアベルを抱きしめた。やっぱコイツはいい奴だ!
「離れろ。馬鹿が移る」
そう言いつつも俺の背中に腕を回すアベルが好きだァー!
「本当にコイツは…」
「本当にお前は…」
「「愛しい奴だ」」

「アベル!俺とやろう!いいだろ?よし、決定!」
「全く……お前はいつも主語が抜ける」

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