鰐王の憂鬱

□鰐王の憂鬱 5 産卵
3ページ/3ページ

産卵の後、数日経ってからアキラに懐妊のからくりが明かされた。
“ ゾッ ”とする……
アキラは怖気をふるった。
セベクは産卵管を差し込んで卵の素を植え付けた。
それは一歩間違えば腸壁を突き破りアキラの命を奪ったろう。
セベク自身、仔を持つのは始めてなのだ。
「まあ、6人もいたら次はないよね。」
底抜けに前向きなアキラはもうすぐ逢える子供達に想いを巡らした。


水面下での熾烈な争い。
決してアキラの前には晒されない雄同士の闘い。
それは日を追うごとに激しくなって行く。
そんな一触即発の状態を無に帰してしまったのは子供達の孵化だった。


その、微かな “ パリン ”という音に気づいたのはうつらうつらと惰眠を貪っていたアキラだった。
後ろからセベクに抱き込まれるようにして横たわっていた身体を起こして部屋の中を見回す。
「ねえ、セベク起きて。
なんかヘンな音がするよ? 」
「ヘンな音? 」
身を起こしたセベクがアキラの頤を捉まえて口づけてくる。
“ パリ ”
眉を顰めたセベクが褥から下りて、つかつかと籠に向かっていく。
「アキラ!
孵化だ! 孵化が始まったんだ! 」
歓声をあげてアキラも近寄った。
「誰か! 誰かいる⁉︎
早く皆を呼んで来て! 早く‼︎ 」

それからは……中洲は大騒ぎだった。
まずは老女とセテフ、アビスが駆けつけて来た。
アビスは大まかな事は知らされていたが、この状態を目の当たりにしてショックを隠せない。
セテフは目を細めて母子を見守った。

“ 1人目 ”が殻を破って出て来たときその鼻先は、被り付きそうに覗き込んでいたアキラと正面から対峙した。
「……まぁ……ま? 」
「き……きっ……きゃわゆいーーーっ‼︎ 」
次々と孵化して来た子供達は全員が黄金色の体色とアキラより僅かに薄い金色の鬣。
そしてアキラと同じ蒼い瞳。

ここに金鰐の6兄弟が誕生した。

厳密に隠匿されていた秘密は皆に知られる事になった。
鰐王の子供達にはセテフとアポピスが後見に付き、この先二人は本当の子供のように慈しんでいく。


朝靄のなか、小鳥が鳴いている。
セベクの腕枕で眠るアキラの胸に、金色の子鰐が登ろうとしていた。
体長20cmほどに成長した子鰐だが、さすがに6匹全員が乗るとアキラも重いだろう。
「おまえたち、重くてママが起きてしまうよ。」
「まぁま……? 」
「ママが起きるまで寝床で大人しくしていなさい。」
セベクは、眠るアキラに覆い被さり唇を重ねる。
アキラの手がセベクの首にかかって引き寄せられた。

そのときセベクは、あと何人か仔がいてもよいなと思ったとか、思わなかったとか。



end
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ