マアト・ラーの夫君たち (エジプトBL)

□獣たちの狂宴
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寝椅子に浅く腰掛けたアキラの足元に跪いた老女が、華奢な足首に真珠のアンクレットを着けている。
蒼玉と金の鈴がアクセントのそのアンクレットは、真珠はアペシュ夫人から、蒼玉はアビスから、金の鈴はセベクからの贈り物だ。
首元をぐるりと覆うネックレスは、夫たちのうちの一人が戯れにつけた所有の証を隠す為のもの。
慎重に髪を避けて金具を留めているのはアペシュ夫人。
彼女はうっとりと天女の姿を見つめていた。

繊細な薄布を幾重にもかさねた衣は微妙な加減で透けていて、華奢な肩のラインを浮かび上がらせている。
腰から下は、細い身体に絡まるように巻きついた腰布式のオーバースカート、そこから今日は複数の裳裾を引いている。
膝から下の素足を露わにして座るアキラは、謁見の間での鰐王の膝の上でも同じ佇まいを見せるのだろう。

「そろそろ刻限ですよ。
どなたがお迎えに参られるのでしょうね? 」
アペシュ夫人ターメラが帯の結び目を整えている。
老女の手が透かし彫りの施された腕輪を二の腕に嵌めてアキラの支度は終わりを迎えた。



今日はかねてよりヘデデトがセッティングしていた日……

鰐館の中庭に造営された新棟はそれがまるまる賓客用の大広間で、今はそこにアキラの夫君たちが一堂に会している。
数ヶ月前のシリス邸での会議の時には居なかった夫が数人、新たに加わって居るので夫君全員が顔を合わせるのはこれが初めての事だった。


やはり特筆すべきはアポピスの存在か。

V字の支点に当たる席を二段高くなった上座に設えて、次段には左右にひとつづつ、あとは両方の列に椅子が並んでいて、それぞれ夫たちが座り始めている。
その次段の向かって左側に優美な佇まいの【白蛇王アポピス】が腰掛けていた。
彼の横には【侍医クヌム】が椅子を寄せて、二人は先程から、なにやら話し合っている。


【白蛇王アポピス】
“ 砂漠の悪魔 ”の二つ名を冠するアポピスの姿を見て、夫たちの中にも少なからず動揺が走った。

砂漠の地下の水晶宮から滅多に姿を顕さない気難しいアポピスが、次席とはいえ上座を他者に譲り、慣れた様子で羊人と話をしている。
この集まりの中には始めてアポピスと会う者も少なくない。
いつもは近寄り難いオーラを振りまいているアポピスだが、今日はそつなく挨拶を受けている。

だが……
白蛇の御君のこころが向いて居るのはたったひとり……
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