ー神々の黄昏ー

□神々の黄昏
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元の世界に戻ってきてもうすぐ一年。

あちらの……皆の元に戻るどころかメロエに近づく事も出来ない。
アラブの王族である義父の力をもってしても、内戦激しい南スーダンへ近づくことはおろか入国もままならなかった。

そんななか母が開いた仮面舞踏会。
皆が思い思いの衣装で集うこのパーティに出席する気になったのは、パリのある宝飾店で見つけたあるネックレスに理由がある。

その、古代エジプト風のネックレスは金地にラピスラズリと孔雀石、そしてダイヤを使ったまるで僕があちらの世界から唯一持って帰れたあのピアスと対の様なデザインだった。
その時の事はあまりよく憶えていない。
多分凄い値段だったのだろうそのネックレスをカードで買って、我に返ったのは店から送り出される時。
ありがとうございました。と車まで呼んでくれたその店主は、アフリカ系でとても暖かい目で僕を見ていた。
そして別れ際に、確かに聞こえた気がしたんだ。
“ マアト・ラー様 ”と。
確かめようとした瞬間、ドアが閉まり車が走り出してしまった。

家に帰ってすぐに母の元へ行きパーティへの出席を告げると、それからが大変だった。
衣装の手配は母が手伝ってくれた。
僕が【女装】するのには吃驚した様だが何も言わずに世話を焼いてくれる。

僕が着ける衣装はセティとアビスが婚姻の誓いをしたあの時の花嫁衣装に近いもの。
最高級の絹とレースを取り寄せて、帯は京都・西陣の金襴、勿論青地に金だ。


パリにある母のゲストハウス。
煌びやかな社交界の催し、仮面舞踏会。
僕はそこの上階で仕度を終えた。
母の意見を取り入れ、二の腕にコブラの腕飾りを、両手首に鱗の紋様のブレスレット(手甲? )をつけた。
あのネックレスをつける。
このデザインって元々僕の首元のキスマークを隠す為に考えられたって知ってる?


手摺に掌を滑らせて階段を降りて行く。
完璧に仕立てられた僕の衣。
上に重ねられたシルクレースの繊細な刺繍の上にダイヤのビーズが縫い留められている。
金のグラディエーターサンダルのヒールは控えめ。

僕はマスクを着けて人混みに入っていった。


社交界のオバ様方のお相手に疲れた僕はひと息つきたくて庭に続くバルコニーに出た。

十六夜の月。
あちらの世界のはじめての夜と一緒。

涙が出てきた。
やっぱり、こんなところに来るんじゃなかった。
踵を返そうとした時、暗闇の中から“ ラー ”と。

嫌だ。
幻聴まで聞こえてきた。
嗚咽を堪えて走り去ろうとすると後ろから伸びてきた手に抱きすくめられる。
悲鳴をあげようとした口を塞いだのは見慣れた黒い手で……

「ラー、ぼちぼち戻ってこないか? 」
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