ー神々の黎明ー

□ー神々の黎明ー マアト・ラーの夫君たち外伝(パロパラss)
1ページ/12ページ


目に入ったのは白い天井、手を上げようとすると点滴のカテーテルに邪魔された。
「? 」
無理に起きあがろうとすると電子音が鳴り響く。
すぐに足音がして部屋に入って来た看護師に続いてドクターと思わしきひとと目を引く美貌の女性が入ってきた。
「明良! 」
“ 明良 ”?
それは僕の名前?
この方は……誰?
「明良、お母様よ、わかる? 」
「お母様……? 」
僕は鸚鵡返しに聞くだけだった。
「ドクター…… 」
“ お母様 ”が綺麗な目にいっぱい涙を溜めて後ろを振り返る。
「頭部には一切異常はありません。
2年前の事故のときも頭部の怪我はなかったように思われます。
……明良様は心因性の記憶障害だと思われます。」


僕が記憶障害だと診断されてからもうすぐ1年。
思い出す事は出来なくても、覚えるのは早かった。
僕はIQ185の天才で “ 超記憶症候群 ”なのだそうだ。
この超記憶症候群、見たもの全てを記憶出来るという凄い症状で、僕の場合は読んだもの、聞いた事も全て記憶出来るヤオイ脳だ。
いわゆる記憶喪失という症状のはずなのにこういう機能は失われないという……脳って不思議。

今日、僕は叔父に頼まれてルーブル美術館に来ている。
以前所属していた大学は3年前の事故の時に退職扱いになっていたので今はニートだ。
そんな僕の叔父からの頼まれ事とはある遺物をCERN(叔父の所属している研究機関)へ運ぶ事。
……ポーターにでも頼めばいいのに。

古代エジプト美術部門の担当者に案内されて展示室へ向かう。
普通、僕みたいな童顔の男が、重要な遺物の移動に関わるなんてあり得ないとおもうのだが、実は母が(ヨーロッパ社交界の女王様)連れ回して下さったおかげで僕の事を知る人は多い。
今、案内してくれている人もそう。
母はここに多額の寄付をしているのだ。

「? 」
それは館内のお土産ものコーナーを通りかかった時だった。
古代エジプトの動物のミニ置物が並んでいる。
その中の青いカバが目に止まる。
……僕、泣いてる。
どうして?
上着の袖で、慌てて涙を拭くと前を歩く案内の人を追った。
そして、古代エジプト展示室に足を踏み入れた瞬間、幻聴というには生々し過ぎる声が僕を取り巻いた。

“ マアト・ラー様! ”

“ マアト・ラー様だ! ”

“ マアト・ラー様よ! ”

“ お帰りになったのだわ! ”

“ お出迎えをしなければ! ”

“ それよりも皆様にお知らせを ”

“ アキラ様‼︎ ”

“ ネクベトです! お忘れですか? ”

“ヴァジェト様をお呼びして……”

僕は耳を塞いだ。
これは一体なに?

「ムッシュ・インドレニウス=ザレヴスキ? 」
案内の人が怪訝そうに振り返る。
「いえ……なんでもありません。」
「そうですか、ではこちらへ。」
彼の開けてくれたドアをくぐり中に入った途端、またもや軽い眩暈が。
軽く頭を振ると学芸員の待つ机の元へ行った。
握手して箱に収められた遺物に視線を落とす。
……おかしい……
「お気づきになりましたか?
鉄器です。L字刀……
それ自体は珍しくありません。
時代が下れば……ね。
これは、発掘された地層及び私達が行った年代測定の結果が12000年前だという事が問題なのです。
それでCERNに依頼した訳です。」
錆びてボロボロになったL字刀……
なぜか……懐かしい。


あれから体調が優れない日が続いていた。
頭痛や眩暈に悩まされて受診したところ、記憶障害の治癒段階だとの事。
それならいいけど。


最近は母の車を使う事が多くて一人で外を歩く事は少なくなっていた。
その日は知人のバースデープレゼントを買いにふらりと、本当にふらりと出掛けてしまった。
それがこんな事になるなんて。

「アキラ、久しいな。
随分探したんだぞ。」

「誰 ⁉︎ 」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ