アキラのお誕生日 2015

□アキラのお誕生日 2015
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鰐人たちの住む中洲の女主人(?)天女アキラは今日も元気に中庭での日課に勤しんでいた。
草生えのなかに手を突っ込んだり、石をひっくり返したりと忙しい。
一体何をしているのか、というと……とりあえず目を引くもの、すべてを採取し吟味して館に連れ帰る。
高台のアキラの館はあたかも動物園の様相を呈していた。

そのアキラの、今日の獲物は?



「セベク!セベクってば!!」

「一体何だ……騒がしい」

パタパタと駆けてくるアキラを部屋に迎えて、それでもセベクは嬉しそうだ。

「これ見て欲しいの〜」

腰帯にぶら下げていた袋を外すと、いきなり机の上に中身を出して見せた。

「!!」

さすがのセベクも身体を仰け反らせたものの正体。
ばさりと転がり出てきたもの、それは侍女たちが見れば阿鼻叫喚ものの、体長30cmはある、真っ赤な百足だった。

「ねぇ、ねぇ、可愛いでしょ?
飼っていいでしょ?
……この子、お話わかるみたいだし、僕の事、噛まない?って聞いたらうんうんってお返事してくれたんだよ」

セベクは頭を抱えた。
アキラの蟲や爬虫類好きは度を超えすぎている。
そのアキラが期待に胸膨らませてセベクを見つめている。


「わかった……少し考えるから時間をくれ。
……それはそうとアキラ、婆らが探していたぞ。
何か約束してたんじゃないのか?」

「あ! 忘れてたー! 僕、行ってくるね。
セベク〜 良いお返事、待ってるよ〜」

現れたときと同じようにパタパタと退室していくアキラを見送って、セベクは溜息した。

「だ、そうだ……
いい加減、元に戻ったらどうだ?」


「バ〜レ〜て〜た〜?」

「わからないはずがないだろう。
アキラじゃあるまいし、嘗めてんのか?!」

「な〜んだ、つまらない」
瞬時に姿をヒトガタに戻した【彼】が、卓に片膝立てて座っている。
【彼】褐色の肌にメタリックレッドのドレッドヘアをした百足の王、セパ。

「一体、どういった了見だ?
何を考えている?」

「だってさ……」
セパがニヤリと笑う……だが目は笑っていない。

「明日のアキラ殿の誕生日会。
男子禁制だとか言うじゃないか……」

「昼間の【女子会】とかいうやつのことか?
二日目からは通常の宴だ。
一日くらい、女どもに譲ってやってもいいと思うが?」

「それはあんたが常日頃から側にいるから言えるんだよ。
だから俺は……俺自身を贈り物にしようと思ったんだ」

「それこそ、何考えてんだ!」
セベクは思わず声を荒げた。
そんなことには動じない、一種達観した様子のセパ。

「俺が考えているのはアキラ殿の事だけだ。
思い浮かべるだけで胸が高鳴る……
もしも許されて、小さな百足の姿でもアキラ殿に飼って頂けるのなら……願いが叶った後、もう俺は死んでもいい」

なんと烈しいアキラへの想い。
なりふり構わないその姿が羨ましいと思ったセベクだった。





アキラの誕生日。
それは、年に一度の中洲での一大イベント。

今年は【女子会】と銘打って、誕生日当日は午後から、アキラと女性たちだけの催しが予定されていた。
そこに参加を許された男がもう一人……菓子担当のムネビスだ。

彼は当日の為に随分と前から……牛に食べさせる草の段階から吟味していた。
……アキラから作り方を教わったケーキやクッキー、トッピングのフルーツやなかに挟むジャム類、ヘデデトに頼んで手に入れたナッツ類……云々。
今年の目玉は西の砂漠経由で手に入れたカカオ……チョコレートだ。

……案の定チョコレートはアキラのみならずご婦人方のハートを鷲掴みにし、ムネビスは鰐館へのフリーパスを手に入れた。

その、アキラの誕生日に行われた【女子会】は、娯楽の少ないこの世界において、ご婦人方の最大のイベントとなり、なおかつそれぞれが持つ技術の発表の場となった。

「ねえ〜 グランマ〜
どうして僕だけ食べちゃいけないの〜?
今日って、僕が主役だよね〜?」

「アキラ殿、そんなものを近づけてせっかくの衣が汚れたらどうするのですか?
皆が、今日の為にと丹精込めて作った【作品】ですのよ?!」
やけに迫力ある目で睨んで来られてはアキラに返す言葉はない。
涙目でチョコレートケーキを見つめて居れば、優しげな微笑みを浮かべたヴァジェトが近づいてきた。

「アキラ殿、どうなさいました?」

嫋やかな美女であるヴァジェトが、見た目通りの存在でないことを知っているものは、この集まりのなかにはいない。
唯一、接触したことのあるアキラはそのとき意識が無かった。
……その、たった一度の交わりをよすがに、ヴァジェトはアキラの傍に侍る。

「ヴァジェト〜 聞いてよぉ〜
皆、酷いんだよ?
衣を汚すから、ケーキを食べたら駄目だって!! 酷いよね〜」

ヴァジェトはアキラの出で立ちを、上からしたまでじっくりと見たうえで、にっこりと笑った。

「……アキラ殿ですから、しょうがないですわね。
少しお待ちになって」

ヴァジェトが卓にのったチョコレートケーキを一口切り分け、それを口に含むと他者と懇談しているアキラを捕まえて……唇を重ねた。
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