年末年始スペシャル

□アキラの個人的趣味とそれに巻き込まれた夫君たち
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早朝から何やらゴソゴソと。

いつもなら腕の中で深い眠りについているはずの妻が暖かな懐から脱け出して寝室から出て行った。

ここはパリにあるアキラのアパルトマン。
前日までのクリスマスシーズンの騒がしさがひと段落し、新年を迎える大掛かりなパーティーを残してアキラはゆっくりと惰眠を貪り、伴侶たちはベッドの中で戯れるつもりだったのだが……

アキラが向かったのは寝室と並んで限られた者しか入れないプライベートな部屋、リビングルームとは違ってそれほどの広さはないがアキラの個人的趣味を網羅した書籍や雑誌、完全プライベート用のPC、大画面のTV、ブルーレイデッキとディスク、各種ゲーム器やソフト……
その中に、数日前に送られてきたそれなりの大きさの梱包箱があった。
もちろん一度は開封されているがアキラがあえて封印していたのには訳がある。

完璧に温度調整されたアパルトマンの中、裸体に薄物……豪奢な総レースのガウンを身につけ絹のサッシュでしっかりと締められている。
寝乱れた金髪、潤んだ瞳、薄物から透けて見えるキスマーク。
そんな艶めかしさをぶち壊しにしたのはその手にぶら下げていたミネラルウォーターのボトルの蓋を開けてラッパ飲みする、その仕草だ。

「♪〜♪〜〜♪〜」

アキラには珍しく軽くメロディーを口ずさみながら段ボール箱の中のものを次々と取り出していく。
部屋に入ってすぐに立ち上げたPCに、段ボール箱から取り出した白一色だが地模様にこった意匠を凝らしたパッケージから一枚の紙を取り出し、そこにあるアドレスを打ち込んで、ある特別なサイトを開いた。

次に取り出したのは前時代のヘッドホンに目を覆う部分を付け足したようなヘッドセット。それを着ける、と。


後ろから羽交い締めにされ息を呑むアキラの唇に押しつけられたそれは、アッという間に口を開かせて舌を侵入させてきた。
欲望と怒りの綯い交ぜとなった激しいキスはあっという間にアキラの息を荒げてしまう。
呻くアキラから唇を離し、その繊細な顎を持ち上げた。

「どういうつもりだ? アキラ……
鬼ごっこがしたいのか?」

ヘッドセットをむしり取ったアビスにいつになく激しくアキラは抵抗し言い放った。

「ダメーっ! もうすぐグランドオープンなんだからログインしなきゃなんだからーっ!!」


クリスマスシーズンの忙しい時期。
母の設立した財団で母と共に広告塔の役割を果たしているアキラは、財団主催のパーティーはもちろんパーティーの梯子など当たり前、特に24日は分刻みのスケジュールにヘリコプターまで使ったのだ。
26日の朝、前日エスコートしてくれた夫たちの中からアビスと夜を過ごしたアキラがダウンしても当たり前、だと思われていたのだが……違った。

「一体なんだァ? アキラ……」

「ゲームすんのよ……」

「ゲームぅ?」

“ アビス知らないの?”
そう喰いついてきたアキラはそれからアビスがゲンナリするほどの説明を始めた。

「VRMMORPG、まあ細かいことは時間がないから置いといて、これ被って意識を電脳世界にリンクさせてプレイする最先端のゲームなんだ。
五感も完全に再現されているもうひとつの世界!!
もう〜 僕の持つコネを最大限に使ってかき集めたんだよ!
さあ、アビスもしよう!!!」

ヘッドセットを振り回し、パッケージを握りしめるアキラの背後に見えるはずのない、激しく燃え盛る炎を……見た気がしたアビスだった。
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