アキラの誕生日 2017

□アキラの誕生日2017
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ーアキラの欲しいものー


「へっ?ここどこ?」

つい今しがたまで住居である神殿に付属する庭に居たはずだ。
白い花崗岩で舗装された道を矢場に向かって歩いていた。
それなのに意識が途切れる事もなく唐突に……今は森の中にいる。

「な、何?どうしちゃった?」

アキラは最初、夫たちの誰かのいたずらで転移させられたのかと思ったのだが、よく見ると植生がおかしい。
見回してみても自分が知る植物とは似ても似つかない……例えばショッキングピンクの葉のついた椰子に似た木とか、見るからに怪しい食虫植物とかがある。

アキラはひとつ溜息を吐いて、目についた岩に腰掛けた。
すると突然それが動き出しアキラはびっくりして飛び退いたのだが、それは岩を背負った亀?のようでアキラを一瞥すると、腰掛けることを許すように岩に戻った。

「ごめんね、少しの間座らせてね」

持っていた弓を膝に置き、いつでも番えるように矢も一本弓と揃えるように置いた。
そして考える。

『ここって絶対おかしいよね?
こんな亀、見たことないし、なんか……僕の目がおかしくなったのかな。
太陽がふたつあるよ……』

森の木々の隙間から覗くのは大小二つの、白っぽい太陽と赤っぽい太陽だ。
アキラは暫くそれを見つめ、溜息した。

「またなのか〜
今度は異世界にトリップしちゃった?」



彼の名は【マアト・ラー・アキラ】
又の名を【アキラ・インドレニウス=ザレヴスキ・マアト】
ある理由で生身のまま神格化してしまった現代人である。

「困ったなぁ」

実はこのアキラ氏 “ 生身 ”ゆえ他の神が持っている能力【刻巡り】や【瞬間移動】などが使えない【不老不死】くらいしか能力のない半端な神様なのだ。
それゆえ普段は現代人として暮らし、夫たちに連れてもらって、気に入った時代で生活しているのだが。

「これ、ちゃんと迎えにきてもらえるのかな?」

さすがに異世界まで捜索して、回収がいつになるのか……そもそも、ずっとこのままの状態かもしれない……アキラはゾッとした。

「僕って生活力ないからすぐにのたれ死んじゃったりするかも……死なないけど」

何度目かわからない溜息をついてあたりを見回した。

「そもそも僕ってここでも不老不死なの?
ラノベとかだったら普通『ステータス』とか言ったら情報が提示されたりするよね」

突然、頭の中でヴゥンと音がして眼前にパネル状のものが現れた。

「おお!ご都合主義だ!」

なぜか日本語で書かれているそれを、漢字などを思い出しながら読み取っていく。
そして……ガックリと項垂れた。


アキラ・インドレニウス=ザレヴスキ・マアト

職業 エジプト神話の【真実と秩序と正義を司る女神】

種族 みそっかす女神(♂)

能力 鑑定、採取、探索、調合、乾燥、結界、アイテムボックス、魅了、不老不死、異世界言語

称号 マアト女神、神々の妻




「何、これ……?」

まさにラノベ設定の数々、それに【みそっかす女神】とまで記載されていて言葉も出ない。
それにどうやら戦闘力は全くないようで、自分の身を守るのは今手にしている弓矢のみ。

「最初に遭遇するのが言葉のわかるひとだったらいいんだけど」

その時、ガサガサと下草を踏みしめる音がした。
アキラのそんな思いと裏腹に、現れたのは有に2mを越す体長の二足歩行の豚【オーク】だった。
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